情報処理学会 第 49 回 全国大会 報告
報告者 :
RWCP
ニューラルシステム研究室
金田 泰
Created: 9/30/94, Modified: 6/8/95.
参照 :
[RWCP ホームページ],
[金田のホーム・ページ],
[親ページ].
報告者は「創発的計算のためのモデル CCM
にもとづく 独立並列処理」について発表するとともに,
他の発表を聴講した.これまで情報処理学会全国大会に出張したときは
GA,ニューラル・ネットなどを
中心に聴講してきたが,今回はハイパーテキスト,
マルチメディアなどのセッションを中心に聴講してみた.
- 開催場所 : 北海道大学 教養部 (札幌)
- 開催日時 : 1994 年 9 月 28 日 9 時 〜 30 日 17 時 (出張期間 : 9 月 27 日 〜 30 日)
- 発表件数など
インテリジェント・パッドは,「パッド」という目にみえる部品をウィンドウ上で
かさねあわせるだけで くみあわせられるようにすることによって,面倒な
インタフェースにわずらわされることなしに
視覚的なソフトウェアがつくれるようにしたシステムである.
視覚的なプログラミング・システムはほかにもあるが,
インテリジェント・パッドの最大の特徴は抽象的な情報のレベルだけでなく
メディアのレベルでの規格化をはかる (つまり,パッドというかたちにする)
ことによって汎用性を獲得したことである.この講演ではその場で
Macintosh をつかったデモをおこない,インテリジェント・パッドの容易さ,
強力さなどをアピールしていた.
感想 : 現在のインテリジェント・パッドはとじたシステムであり,普及のためには
WWW のようなネットワークに対してひらかれたシス
テムにすることが必要だと報告者はかんがえているので,その点をききたかった.
講演者はこの点にふれて,現在 WWW をつうじた部品の流通をテストするとともに,
WWW との融合もかんがえているとのべた.また,インテリジェント・パッドの
X Windows 版は ftp でとれるようになっているという.
パネラは 嘉数 (北大),下原 (ATR),樋口 (電総研),伊庭 (電総研) の 4 人.嘉数が
GA,ニューロ,創発的計算をふくむ
もっともひろい範囲の研究をおこなっている.? は ATR における人工生命研究を
CG をつかったビデオなどで紹介した.樋口は進化するハードウェアについて,
また伊庭は古典的な (?)
遺伝的プログラミングについて話した.
しかし伊庭はむしろ古典的な
AI の立場にたっていて,
遺伝的アルゴリズムがそれにとってかわることには懐疑的だった.
「21 世紀の情報技術を展望する」というおおきなテーマをかかげているわりには,
GA や
ALife
関係にパネラがかたよっているのではないかという印象をうけた.すなわち,
「創発」パラダイムにもとづく基礎的な話題がおおく,応用にちかい話題は
あまりなかった.また,21 世紀の情報技術というと通信がきわめて重要なはずだが,
下原がインターネット上の Tierra についてふれていた程度で,主要なテーマとは
ならなかった.司会の相磯教授はノーベル・コンピューティングという
あたらしい情報処理研究をたちあげることにもかかわっているはずだが,GA や
ALife に関してはあまりなじみがないようで,それがかたよりの原因ではないかと
おもわれる.ただ,それらになじみがないことが情報処理学会会員の一般的な
傾向であるならば,会員にとってこのパネルは有意義だっただろう.
パネラは 浜野 (放送教育開発センタ),松下 (慶応大),栗原 (NTT) の 3 人.
最初に原島が導入的なはなしをしたが,そこでは,従来はマルチメディアというと
CD-ROM などのソフトをどうつくるかといった
商売に直結したはなしがおおかったが,最近はかならずしもそうではなくて
ネットワークなどとの関係が重要になっているということをはなした
(WWWもマルチメディア機能をとりこんだために
普及したのだとかんがえられるから,インターネット,ハイパーテキスト,
マルチメディアなどの話題は,もはやきりはなして論じることはむずかしいだろう
と報告者もおもう).浜野は,現在の日本では政府の規制や大企業の既得権などの
ためにマルチメディアのあたらしいこころみがつぶされていて,将来について
悲観的だった.松下はマルチメディアのインフラ整備に関する提言をまとめて
いる立場から,きびしいがより建設的な意見をのべていた.栗原は個人の意見を
のべるとともに NTT がなにをしているかをビデオなどで説明していた.
独立並列処理とは,複数のプロセッサでたがいに通信せずに並列処理することを
意味する.この発表は,CCM
においては計算時間がほぼ指数分布にしたがうばあいがあり,
そのばあいには独立並列処理によってほぼプロセッサ台数に比例する (すなわち線形な)
性能向上が可能であることを理論とシミュレーションとによってしめしたものである.
質疑の時間には,クラス
NP の問題を線形に加速しても指数的な時間がかかることにかわりはないのではないか,
線形加速ができない巡回セールスマン問題における計算時間の分布はどうなるのか,などの質問がだされた.前者に対しては,CCM においては計算はランダムなので
平均的には多項式時間で計算できることをこたえ,後者に対しては正規分布にちかい
分布になることをこたえた.
再構成メッシュとはメッシュ状に配置したプロセッサが遅延時間なしにネット
ワークのルーティングをおこなえるようにした仮想的な並列計算機アーキテクチャ
である.このセッションには他にも 1 件再構成メッシュに関する発表があったが,
現在さかんに理論的研究がおこなわれているということである.この
発表は従来の研究における再構成メッシュ上での加算アルゴリズムを改善した
ものであり,それほどおおきな研究成果とはかんがえられない.しかし,再構成
メッシュのアルゴリズムは,
実用になるかどうかは将来のデバイス技術しだいだというが,
従来のアルゴリズムにはないおもしろさがあると報告者はおもう.
E. Balas, C. H. Martin らによる Pivot and Complement 法 (P & C 法) にもとづく 0-1
整数計画問題の近似解をもとめるプログラムを開発した.この発表では P & C
法や分枝限定法との比較をおこなっているが,例題がかぎられていること,
他の近似解法との比較はおこなっていないなどの理由によって,これだけでは
報告者にはどう評価してよいかわからない.
CCM にもとづく方法にくらべて
高速であることはたしかだが,性能的にどちらがよいかは比較できなかった.
ユーザのレベルをあらかじめ登録することにより,それに応じたメッセージを出力する
オンライン ヘルプ システムに関する発表である.この機能を実現するために,
パラメタによってリンク先が自動的に変化するハイパーリンクをつかっている.
このようなリンクは他の目的にも有用であろうと報告者にはおもわれる.たとえば,
WWW
において複数の参照リンクのなかからクライアントのサイトにちかいものを選択する
ようなしかけがあると非常によいとおもわれる (ただし,これはむしろ
HTML
文書内のリンクを外的なデータベースにもとづいて置換するという方法で実現したほうが
よいかもしれない).ところで,動的ハイパーテキストの
実現のためには,このような動的リンクだけではなくて,ひとつのファイルのなかで
パラメタによって表示するかしないかをきめるような (C の #ifdef
のような)
機構があると便利だとおもわれる.
以下の発表は聴講していないが,注目に値するとかんがえられる.
プロダクション・システムに各種のウェイトをとりいれることによって,
環境に適応したルールの学習をおこなうことをこころみている.
「プロダクションシステムの良さは計算せずに一瞬で答えを出す事である.
この方法で数十都市の TSP の優良コースを一瞬でだしてしまう.」
とのべている.金田の
CCM の研究との関連がありそうだし,
神奈川大の宇佐美による TSP の研究にも関連があるかもしれない.
ここで実験中の
fj.meeting のダイジェスト作成に関する発表である.
聴講していないので内容については省略するが,キーワード検索のような機能は
「ウィンドウ・ショッピングのようにさまよい歩くにはあまり役に立たない」,
「「集合としての情報」に触れてみるための道具立てが,
あまり発達していないようである」などという報告者には興味ある指摘をしている.
つぎの発表は注目に値する可能性がある :
1Q-7 (教育への応用), 2Q-3 (教育への応用), 4C-1 〜 3 (WISH -- 衛星),
3D-6 (動的なニュースグループ構成), 3D-7 (NetNews 記事探索と統計的分類),
1W-3 (マルチメディア分散情報共有システム FIND2,Mosaic, WAIS
などを利用.富士通社内向).
つぎの発表は注目に値する可能性がある :
3J-5, 4J-2 〜 6, 2P-4 (SAT).
つぎの発表は注目に値する可能性がある :
3J-7 (Classifier-ID3), 1P-3 (自己安定分散アルゴリズム), 1P-7 (Tabu search),
1P-9 (多目的離散最適化問題), 1B-9 〜 10 (モンドリアン・パタン),
3B-1 (自己組織化による研究情報の構造化, 筑波大),
6B-4 (自動車群における自律分散システムの協同現象), 2T-1 〜 3 (OZ++),
2W-2 〜 4 (文書情報管理システム Bibliotheca/IS,日立).
Y. Kanada (Send comments
to kanada@trc.rwcp.or.jp)