1995 年並列 / 分散 / 協調処理に関する「別府」サマー・ワークショップ
(SWoPP '95) 報告
報告者 :
RWCP
ニューラルシステム研究室
金田 泰
Created: 8/26/95, Modified: 8/29/95.
SWoPP '95 は
電子情報通信学会
3 研究会と情報処理学会
4 研究会が合同で開催するワークショップであり,1995 年 8 月 22 日から
25 日にかけて,大分県別府市にある
B-Con Plaza
においてひらかれた.
講演件数は 133 件,参加機関は 42 (大学 100 件,企業 21 件,ほか 12 件),
参加者総数は 267 人だった.昨年にくらべると参加研究会数は減少したが,個々の
研究会の参加者数は昨年なみである.なお,今回は
Permean '95
(計算機性能の測定ならびに解析に関する国際ワークショップ) という国際学会が
ほぼ同時におなじ場所で開催されたことが,ひとつの特筆されるべきことである.
聴講したおもなセッションはつぎのとおりである.
- AI-1: 分散 / 並列処理 (電子情報通信学会人工知能と知識処理研究会)
- AI-2: プロトコルと応用 (電子情報通信学会人工知能と知識処理研究会)
- PRO-1: 並列処理ランタイム (情報処理学会
プログラミング
研究会)
- PRO-2: 並列処理コンパイラ (情報処理学会プログラミング研究会)
- PRO-3: 並列処理オブジェクト指向言語実装 (情報処理学会プログラミング研究会)
- PRO-4: 並列論理プログラミング言語 (情報処理学会プログラミング研究会)
- ARC-7: マルチスレッドアーキテクチャ
(情報処理学会計算機アーキテクチャ研究会)
- PRO-6: 次世代の並行・分散プログラミング言語
(情報処理学会プログラミング研究会)
いくつかの発表について報告する.
人工知能研究会の発表のなかではマルチエージェントに関するものが 8 件中
5 件だった.「並列」が第一のキーワードである発表は,報告者のものをふくめて
2 件だった.
SWoPP '93 における
発表,
SWoPP '94 における
発表
にひきつづいて
CCM
によるくみあわせ問題解決について発表した.今回の中心は,昨年かんたんにふれた
フラストレーション蓄積法という一種のアニーリングの方法において,うまくパラメタ
を調整することによってグラフの彩色などのむずかしい問題がとけるようになった
ことと,その処理の小規模並列処理の方法とその実験結果についてである.
CCM に関する基本的な説明と今回の新規事項とをうまくバランスをとって説明した
つもりだが,昨年までとは聴講者にかさなりがすくないこともあって (昨年までは
情報処理学会の AI 研究会だったが今回は電子情報通信学会の AI 研究会であるこ
と,
IJCAI '95
とかさなったことがおもな理由だとおもわれる.) 十分に理解して
もらうことができなかったようである.
質疑 : 並列処理のためにどのように排他処理がおこなわれるか,並列度と局所性と
の関係はどうなっているか,などの質問がだされた.
エージェント間で合意をとるための 3 つの方法をしめし,そのなかで回覧板方式が
もっともすぐれていることをしめした.ただし,この証明はきびしい (非現実的な)
条件を仮定している.かぎられた時間内に合意をとる必要があるばあいなどは,ほ
かの方式のほうがすぐれているとかんがえられる.この研究はソフトウェア・エー
ジェントに関するものだが,その背後に人間がいることをかんがえれば,心理学的
あるいは社会学的な考察も本来は必要だとかんがえられる.
AI95-21: 相手を説得するメールは可能か,
村川 賀彦・國藤 進 (北陸先端大),鷲尾 隆 (三菱総研)
人間にかわって他人を説得するエージェントについて考察している.考察の内容
は技術的というよりはむしろ社会心理学的である.興味ぶかい発表ではあった
が,実用レベルのエージェントをつくるのはむしろ夢といってもよいように
報告者にはおもわれる.
概観
非常に新規な内容をもつ発表はすくなかったが,そのなかでは PRO-6;2-23 は
新規性があったとおもう.しかし,報告者は最近プログラミング言語やコンパイラ
から比較的とおざかっているので,あらたな概念,たとえば階層タスクグラフ
(HTG) というものを知ることができた点でも個人的には収穫があった.
PRO-1;2-2: グローバルガーベジコレクションの評価のためのグラフの自動生成,
前田 宗則 他 5 (RWCP)
大域 GC のための方法を開発し,テスト・データを自動生成してその評価をおこ
なった.テスト・データ生成のパラメタは非常に多数あり,どういう値が妥当で
あるかは,まだ明確になっていない.GC の方法は原理的には単純明晰である.
これでよい性能がえられることがしめされれば,非常によいであろうと報告者に
はおもわれる.
PRO4;2-12: OR 並列 Prolog 処理系のための分散管理方式による負荷分散機構の
AP 1000 上での実現,川畑 徹・内垣 雄一郎 (神戸大),松田 秀雄 (阪大),
金田 悠紀夫 (神戸大)
決定的な負荷分散法に関する研究である.近傍のプロセッサだけのあいだで負荷
分散すると十分に分散させることができないので,プロセッサ番号が Fibonacci
数だけはなれたプロセッサに分散するようにした.これによって遠方へも分散さ
れるようになり,また決定的であるためにタスクを追跡することも容易である.
質疑 : なぜ Fibonacci 数をつかうのかという質問に対して,明確な理由はない
と回答された.他の数列をつかったばあいとの比較が必要だとおもわれる.
PRO-6;2-23: ``柔らかい'' 部品参照を用いるプログラミング言語に関する
一考察,小林 弘明 (電通大)
あらかじめ用意された部品をくみあわせてプログラムをつくるかたちの
プログラミングにおいて,``やわらかい'' やりかたで部品を参照 (検索) する
方法について考察している.あまり関連の文献を参照していないが,独自の考察
をつみかさねることによって独自の研究をしようとしている点は評価できる.
質疑はかなり批判的なものがおおかった.現状では批判に十分こたえることは
できていない (それを本人も自覚している) が,その解決にむけて研究をすすめ
ようとしている.
計算機アーキテクチャ研究会とハイパーフォーマンスコンピューティング研究会
からそれぞれ 1 件ずつについて報告する.
ARC-7;24: RWC-1 のシステム構成と基本動作,坂井 修一
(RWCP),
松岡 浩司 (RWCP, 代理発表) 他 6
RWCP において開発中の超並列計算機 RWC-1 に関する 5 件の発表 (うち 3 件は
このセッション) のなかの 1 件である.RWC-1 はデータフロー計算機とノイマン
型計算機とを融合したアーキテクチャを特徴としている.しかし,このプロジェ
クトが野心的であるのはその点だけにあるわけではなくて,スーパースカラーの
採用,例外の処理方式をはじめ,いたるところにくふうがみられる.野心的なの
はよいが,よくばりすぎているのではないかとも報告者にはおもわれる.
HPC57-9: クラスタ型ベクトル並列スーパコンピュータ S-3000 クラスタ
システムのアーキテクチャと特性評価,田中 輝雄 他 6
(日立製作所)
S-3800 3 台を共有記憶でむすんだクラスタを 4 つ高速なネットワークで接続し
てひとつのタスクを実行させる実験をおこなっている.クラスタ間のネットワー
クは高速とはいってもクラスタ内にくらべると throughput はひくい.実行させた
タスクはそれほど密なクラスタ間通信を要するものではない.したがってよい性能
がえられているが,このようなシステムを評価するのに適切なタスクであるか
どうかは報告者には疑問がある.
3. 発表以外のもよおし
3.1 パネル
直前にテーマが超並列計算機の将来にきめられ,パネリストは平木 (東大),
瀧 (神戸大),松岡 (RWCP),
小柳 (東大 / 筑波大),司会が松岡 (東大) だった.
1000 万台の並列機をめざすべきだ,台数はすくなくてすむならすくないほうが
よい,などなど,さまざまな議論がかさねられた.ユーザのいうことをきくべき
でない (ユーザにこびると方向をあやまる),という意見もだされた.しかし,
全体としてみると,やはりトレンドに支配された世界からぬけでておらず,表面
的にはともかく本質的にはつまらない議論に終始したように報告者は感じた.
それが並列処理の研究じたいが現在おかれている状況をしめしているのであろう.
RWCP の松岡氏は非常に慎重な発言をしていたが,このような場では今回は参加で
きなかった坂井氏ならば他のメンバーに十分対抗できるおおきな話ができるの
ではないかとおもった.
3.2 ISDN によるインターネット接続,懇親会とインターネット接続実験
会期中は ISDN
によって会場内の 7 台ほどのワークステーションがインター
ネットに接続され,telnet などに使用することができた.しかし,台数がすく
ないために,報告者はなかなか使用することができず,メイルはたまったままに
なってしまった.
懇親会においてもインターネット接続実験がおこなわれた.懇親会場内の大型
ディスプレイに Macintosh による WWW などの様子がうつしだされた.地元の
ネットワーク同好会である COARA
のメンバーによってデモと活動紹介がおこな
われた.県 (知事) のサポートのもとでの
COARA の実験は,技術的にはそれほ
どあたらしいものでないとしても,コンテンツとしておもしろい実験成果をだ
す可能性があるのではないかと報告者にはおもわれる.
Y. Kanada (Send comments
to kanada@trc.rwcp.or.jp)