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音響

ITD と ILD

ある音源が発する音が人に方向感をおこさせるおもな要因はつぎの 2 つだといわれている.

ITD (interaural time difference, 両耳間時間差)
ひとつの音源から発する音が左右の耳にとどく時間の差. 音源が正面より左側にあれば左耳にさきに到達し,正面より右側にあれば右耳にさきに到達する.
IID (interaural intensity difference, 両耳間強度差)
ひとつの音源から発する音の左右の耳における強度の差. 音源が正面より左側にあれば左耳のほうがつよく,正面より右側にあれば右耳のほうがつよい. ILD (interaural level difference) とよばれることもある.

これらは比較的容易に制御できるため,1960 年代あるいはそれ以前からよくつかわれてきた. ITD の代表的なモデルとしてはつぎの 2 つがある. Kuhn [Kuh 87] によれば,音速を c,周波数を f,人頭の水平な断面を円形としたときの半径を a としたとき,k = 2pf / c が ka << 1 をみたすときは

ITD = (3a / c) sin ϑ (杪)

ka >> 1 をみたすときは

ITD = (2a / c) sin ϑ (杪)

である. たとえば,a = 0.09, c = 340, ϑ = p / 2 とすると ITD = 0.53 ms または 0.79 ms となる. Woodworth と Schlosberg [Woo 54] はべつの近似式をあたえているが,それによると

ITD = a (sin ϑ + ϑ) / c (杪)

である. たとえば,a = 0.09, c = 340, ϑ = p / 2 とすると ITD = 0.68 ms となる.

一方,IID に関しては ITD のように単純な式によって近似することは困難である. すなわち,IID が重要になる 2 kHz 以上の領域においては IID は複雑な特性をしめす [Dud 98]

University College London (UCL) において開発された RAT (Robust Audio Tool) [Har 96] はマルチキャストにもとづく音声チャットを中心としたコミュニケーション・ツールだが,RAT にはつぎのようなかんたんな 3D 化の機構がくみこまれている (ただし,この機構に関して RAT の関連論文では記述されていないようである). 入力された信号にはまず角度に依存しない HRTF (頭部伝達関数) がたたみこまれたあと,方位角に依存した IID と ITD が計算される. ITD の計算式はつぎのとおりである:

ITD = 2.72727 sin ϑ (ms).

この式において ϑ = p / 2 とすると ITD = 2.73 ms となる. これは上記の Kuhn や Woodworth らの式にくらべるとかなり誇張された (巨大な頭に対する) 値である. このように誇張された値を使用しているのは,3D 化の効果をよりたかめたかったからだとかんがえられる. また,IID (正確には強度比) はつぎの式によって計算されている:

IID = 1 - 0.3 sin ϑ.

(この式は実際の IID とくらべると,はるかに単純化されている.) しかし,ITD, IID を制御するだけではつぎの 2 つの問題が解決できなかった.

1) 前後・上下のくべつができない
2 個の耳の中心をむすぶ直線に対して線対称な位置にある音源に関しては ITD, IID はひとしい. したがって,ITD, IID だけでは原理的に前後・上下などのくべつができない.
2) 音が頭内に定位する
ITD, IID を制御しても,おおくのばあい,ヘッドフォンからの音は聴取者の頭部内からきこえる (この現象は頭内定位 (inside-the-head localization, IHL) とよばれている [Beg 00]. IHL のため,ITD, IID だけでは自然の音源の定位をシミュレートすることができない.

関連項目

参考文献

  • [Beg 00] Begault, D. R., “3-D Sound for Virtual Reality and Multimedia”, NASA/TM-2000-XXXX, NASA Ames Research Center, April 2000, href="http://human-factors.arc.nasa.gov/ihh/spatial/papers/pdfs_db/Begault_2000_3d_Sound_Multimedia.pdf">http://human-factors.arc.nasa.gov/ihh/spatial/papers/pdfs_db/Begault_2000_3d_Sound_Multimedia.pdf
  • [Dud 98] Duda, R. O. and Martens, W. L., “Range Dependence of the Response of a Spherical Head Model”, J. Acoustical Society of America, Vol. 104, No. 5, pp. 3048-3058, November 1998.
  • [Har 96] Hardman, V. and Iken, M., “Enhanced Reality Audio in Interactive Networked Environments”, Framework for Interactive Virtual Environments (FIVE) Conference, December 1996.
  • [Kuh 87] Kuhn, G. F., “Physical Acoustics and Measurements Pertaining to Directional Hearing”, in Yost, W. A. and Gourevitch, G. (eds), Directional Hearing, Springer-Verlag, pp. 3–25, 1987.
  • [Woo 54] Woodworth, R. S. and Schlosberg, R., “Experimental Psychology”, Holt, Rinehard and Winston, pp. 349–361, 1954.
Keywords: ITD, IID, 両耳間時間差, 両耳間強度差, ILD, RAT, Robust Audio Tool, 頭内定位, IHL

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