さまざまなビジネスコミュニケーションの分類をこころみる.
1. 閉鎖性にもとづく分類
ビジネスコミュニケーションのなかには,ミーティング,うちあわせ,狭義の会議のような目的が明確化されたコミュニケーション・情報交換の場もあり,これらのためには通常,会議室やミーティング・スペースなどをつかう. しかし,遠隔地にいる仲間もあわせて電話やテレビ会議などの手段をつかうこともある. 近年では,すぐに相手の反応をきく必要がなければメイルをつかうことがおおい. 電話をつかうときは通常 2 人で (1 対 1 で) 話をするが,それ以外のばあいは 3 人以上でもできる. 「会議」 というときは通常,参加者は 3 人以上である. また,ちょっと (かならずしも目的が明確化されていない) 話をするために仲間の席にいったり電話したりすることもあるだろう. 目的が明確になっていないとしても,これらの行為は会議と同様に意図的である.
以上のようなビジネスコミュニケーションを分類するための視点として,つぎのようなものがある.
- 1. 目的・意図
- 家庭などにおける日常会話にくらべると職場などでかわされる会話にはコミュニケーションの目的・意図が明確なものがおおい. しかし,雑談はもちろん,仕事上の会話でもそれがかならずしも明確でない "情報交換" のようなものもある.
- 2. 相手
- 会議においては参加者すなわちコミュニケーションの相手は明確であるが,職場における会話には,周囲から自発的に参加するひとがいるばあいもあり,相手の範囲はかならずしも明確でない. 話がきこえる範囲にいるひとは相手になりうる.
- 3. 場所
- 会議は通常,周囲から隔離された会議室でおこなわれるので,場所は明確化されている. しかし,日常生活においては会話しながら移動するばあいもあり,場所は明確でないことがおおい.
このように目的・意図,相手,場所のそれぞれが明確なばあいと不明確なばあいとがある. また,これらのあいだには相関がある. したがって,おおきくわければビジネスコミュニケーションにはつぎの 3 とおりがあるということができるだろう.*
- 1. 閉鎖型コミュニケーション (クローズド・コミュニケーション, closed communication)
- 目的・意図,相手,場所のそれぞれがとじている (明確化されている) コミュニケーション. たとえば会議は閉鎖型コミュニケーションである. ビジネス目的の電話は目的,相手が明確であり,固定電話どうしの会話であれば場所も固定されているので,閉鎖型だといえるだろう. 携帯電話をつかうと場所は明確でなくなるので分類上は後述する半開放型になるが,閉鎖型にちかいということができるだろう. メイル (とくに 1 対 1 でやりとりされるもの) は物理的な場所は明確でないとしても,相手は明確であり,目的が明確であれば閉鎖型に分類してよいだろう.
- 2. 開放型コミュニケーション (オープン・コミュニケーション, open communication)
- 目的・意図,相手,場所のそれぞれがひらいている (明確化されていない) コミュニケーション. たとえば職場における立ち話 (ひそひそ話はのぞく) はこれにあたるだろう. 立ち話にも目的はあるだろうが,そこからはずれることもおおい. また,相手はとりあえずきまっているが他者が参加したり,もとの参加者がぬけたりすることもある. 特定の場所ではじまるが,範囲は明確でなく,また途中で移動することもある.
- 3. 半開放型コミュニケーション (セミオープン・コミュニケーション, semi-open communication)
- 目的・意図,相手,場所のいずれかがひらいている (明確化されていない) コミュニケーション. メイリングリストにおいては通常,目的やメンバーは明確に定義されているものの,メンバーの範囲 (だれがメンバーなのか) を各メンバーが明確に意識していないことがおおいので,半開放型だということができるだろう.
閉鎖型コミュニケーションはビジネスのさまざまな場面においてふつうにみられるスタイルである. それに対して開放型コミュニケーションは,ばあいによるとほとんどみられないこともあるだろう. 開放型コミュニケーションがどれだけ機能しているかは会社の文化にもよっているとかんがえられる.半開放型は開放型とくべつされるべきだとかんがえられるが,この報告においては開放型とあわせて考察することにする.
閉鎖型コミュニケーションには一方向性のものと,双方向性のものつまり会話的なものとがある. 一方向性のものとしては,質問をのぞけば情報が一方向にながれる報告会,研究会などがある. 株主総会もここに分類できるかもしれない. この検討は会話的なコミュニケーションを対象としているので,一方向性のコミュニケーションは基本的にとりあげない.
双方向性の閉鎖型コミュニケーションは "広義の会議" だということができる. すなわち,会議は双方向的なコミュニケーションをおこなうものであり,また会議においては,実際には目的や相手が明確にきめられていないこともあるが,本来は目的,相手 (参加者),場所のすべてが明確化されているべきである. ここで "双方向性" ということばを会話がなりたつことというようにきびしくとらえるなら,メイルはそこからおとされてしまう. 電話会議,テレビ会議,インスタント・メッセージングによる会議は "広義の会議" にふくめることができる.
* ここではビジネスコミュニケーションにかぎって論じるが,この分類じたいは他の種類のコミュニケーションにも適用されるだろう.
2. Steelcase による 4 分類
Steelcase (スチールケース) 社は米国のオフィス家具ベンダであるが,単に家具を販売するだけでなく,おもにオフィス家具によって実現される,はたらく場所としての "ワークプレイス" の設計をうけおっている. Steelcase 社の Web サイトにはワークプレイスの設計思想や設計例など,多量の情報がのせられている. そのなかに "Face to Face, Screen to Screen - Collaboration in the New Workplace" [Ste 01] というドキュメントがあるが,このなかでコラボレーションが分類されている. ここでは分類の軸として "対話的 ⇔ 協働的","自発的 ⇔ 計画的" という 2 つがつかわれている. それによって,コラボレーション (あるいはコミュニケーション) は 4 つに分類される.
- 1. 第 1 象限: 対話的かつ自発的
- 冷水機のそばでなされるような会話.単なる社交よりはるかにおおきな意味をもつという. 日本ではしばしばこのような会話のために "talk room" がつくられると紹介されている.
- 2. 第 2 象限: 協働的 (コラボラティブ) かつ自発的
- 問題解決,アイディアだし,解決策の交渉などのため,短時間から 1 日にわたる共同作業がおこなわれる. Steelcase ではこのような共同作業の分析を広範におこなったというが,具体的な例はあげられていない.
- 3. 第 3 象限: 協働的 (コラボラティブ) かつ計画的
- 意図的な共同作業であり,speaker phone,インターネット接続,プロジェクタ,ビデオ会議システムなどがよくつかわれるという. ブレイン・ストーミングはここに分類されるのだろう.
- 4. 第 4 象限: 対話的かつ計画的
- 伝統的なミーティングがここに相当する. 既存の施設における会議室,ミーティング・ルーム等はほとんどこの種の共同作業のためにつくられているが,実態にあっていない.
企業においてはほとんどのスペースが個人にわりあてられ,のこりの部分のおおくが会議室にわりあてられているが,上記の第 1 ~ 3 象限のためにはほとんどスペースがさかれていない.
この分類における "自発的 ⇔ 計画的" という軸がほぼ 開放的 対 閉鎖的 の対立に相当しているとかんがえられるが,自発的,計画的ということばのほうがより直観的だといえる. "対話的 ⇔ 協働的" という軸の意味も直観的に理解することができるが,その意味については考察が必要だろう. しかしながら,この報告のおもな対象は会議であり,それは "対話的" に分類されるので,協働的コミュニケーションに関する分析はこの報告においてはおこなわず,今後の検討課題とする.
参考文献
- [Ste 01] Steelcase, “Face to Face, Screen to Screen — Collaboration in the New Workplace”, http://www.steelcase.com/Files/21d8f5ef4ddb41f390f3799283698f43.pdf .