ここではまず従来の意味での QoS すなわち客観的に測定できる遅延,ジッターなどの通信品質についてのべ,つぎにその本来あるべき意味すなわち人間の主観的な評価をとりいれた品質について検討する.
長 [Cho 99] によれば,「ネットワークサービスの品質,すなわち QoS (Quality of Services) とは,通信の品質を定量的に表現するもの」 であるという. たとえば,つまり,通信の帯域速度,パケットの遅延時間やジッターの量,パケットの損失率等がそれである. ネットワークの世界で QoS ということばがこのような意味で使用されていることはまちがいないであろうが,本来 QoS ということばは quality すなわち質を追求することを意味しているはずであり,上記の定義のように量を追求するのは,あるべきすがたではないとかんがえられる.
すなわち,アプリケーションやサービスごとにそれがもとめる QoS はちがうはずであり,それにしたがって QoS を保証する方法も一元的ではないはずである. たとえば,VoIP 通信をつうじてコミュニケーションの場を再生する voiscape [Kan 03] のようなメディアにおいてはその再現性がサービスの質を評価する指標となるとかんがえられる. より具体的にいえば,場の再生のためには,制御 (SIP),会話・ストリーミング (RTP) それぞれ個別の品質だけでなく,それらのトラフィック間の関係を維持したり (たとえば会話とストリーミングとの同期など),制御とメディア・ストリームとの連携などがサービスの質をきめるであろう.
ISO 8402 においては QoS をつぎのように定義している: "Totality of the characteristics of an entity that bear on its ability to satisfy stated and implied needs".また ITU-T 勧告 E.800 においては QoS を "the collective effect of service performance which determines the degree of satis-faction of the user of the service"と規定している. これらはネットワークに特定した定義ではないため,いずれも上記の定義より抽象的であり,より本来のすがたにちかいものになっているとかんがえられる.
田坂 [Tas 06] は,ユーザが体感する品質すなわち知覚 QoS の重要性を指摘し,NGN においては知覚 QoS が QoE (Quality of Experience) とよばれているが規定外となっていることを指摘し,それに関してなんらかの定量的検討が必要であろうと結論している.
ネットワークにおける QoS をかんがえるときは,現在この世界で通用している QoS の概念をまず最初にかんがえなければならないが,とくに端点間の QoS をかんがえるときは,上記のような本来の意味での QoS をあわせてかんがえるべきであろう.
参考文献
- [Cho 99] 長 健二朗, “インターネットにおける QoS 制御技術 ~ DiffServ”, Internet Week 99, (社) 日本ネットワークインフォメーションセンター, http://www.nic.ad.jp/ja/materials/iw/1999/notes/C8.PDF, 1999.
- [Kan 03] 金田 泰, “仮想の '音の部屋' によるコミュニケーション・メディア Voiscape”,電子情報通信学会 技術研究報告 (MVE / VR 学会 EVR 研究会),2003-10-7.
- [Tas 06] 田坂 修二, “IP ネットワークにおける知覚サービス品質”, 技術開発ニュース No. 118, 中部電力, 2006-1.