「ネットワーク負荷分散」 ということばは,負荷分散装置のようなネットワーク機器によってサーバやストレージの負荷分散をはかるときにも使用されるが,ここではネットワークやネットワーク機器における輻輳をさけるために,ネットワーク・インタフェースやネットワーク・リンク,経路などを分散させることを意味する. このようなネットワークにおける性能評価および最適化の技術は “トラフィック・エンジニアリング” [RFC 3272] とよばれている. トラフィック・エンジニアリングのためには様々な方法があるが,実用上は MPLS (Multi-Protocol Label Switching) [RFC 3031] を使用しておこなわれることがおおい. そのため,この項目においても MPLS によるトラフィック・エンジニアリング [RFC 2702] [RFC 3346] を中心にあつかう.
MPLS トラフィック・エンジニアリング
MPLS においては,経路を明示的に指定することによって,経路を自由に制御することができる. この機能を MPLS トラフィック・エンジニアリング (MPLS TE) という. MPLS TE によってトラフィックの分散をはかることができる. たとえば,送信元と宛先がおなじパケットでも,リアルタイム・トラフィックと非リアルタイム・トラフィックというようにトラフィック・クラスがちがうものにことなるラベルをあたえれば,ことなる経路をあたえて,負荷分散をはかることができる.
また,MPLS ノード (LSR, Label Switch Router) によっては,パス単位で帯域を確保したり制限したり,優先制御したりするなど,各種の QoS 制御をおこなうことができる.MPLS TE のために RSVP, LDP を拡張したプロトコルは,それぞれ RSVP-TE [RFC 3209],CR-LDP [RFC 3214] とよばれている.
DiffServ-アウェア MPLS トラフィック・エンジニアリング
DiffServ (Differentiated Services, 差別化サービス) のクラスごとに経路を制御する MPLS TE を DiffServ-アウェア MPLS TE という [RFC 4124]. MPLS コア・ネットワークが DiffServ によって QoS 保証されているときは MPLS TE を使用することによってトラフィック・エンジニアリングを比較的容易にとりいれることができる. RFC 4804 [RFC 4804] においては RSVP によってフローごとの要求にもとづく資源制御がおこなわれているときに,それらの要求を集約して MPLS コア・ネットワークのトラフィック・エンジニアリングに反映させる方法が標準化されている.
参考文献
- [RFC 2702] D. Awduche, J. Malcolm, J. Agogbua, M. O'Dell, and J. McManus, “Requirements for Traffic Engineering Over MPLS”, RFC 2702, IETF, September 1999.
- [RFC 3031] E. Rosen, A. Viswanathan, and R. Callon, “Multiprotocol Label Switching Architecture”, RFC 3031, IETF, January 2001.
- [RFC 3209] D. Awduche, L. Berger, D. Gan, T. Li, V. Srinivasan, and G. Swallow, “RSVP-TE: Extensions to RSVP for LSP Tunnels”, RFC 3209, IETF, December 2001.
- [RFC 3214] J. Ash, Y. Lee, P. Ashwood-Smith, B. Jamoussi, D. Fedyk, D. Skalecki, and L. Li, “LSP Modification Using CR-LDP”, RFC 3214, IETF, January 2002.
- [RFC 3272] D. Awduche, A. Chiu, A. Elwalid, I. Widjaja, and X. Xiao, “Overview and Principles of Internet Traffic Engineering”, RFC 3272, IETF, May 2002.
- [RFC 3346] J. Boyle, V. Gill, A. Hannan, D. Cooper, D. Awduche, B. Christian, and W. S. Lai, “Applicability Statement for Traffic Engineering with MPLS”, RFC 3346, IETF, August 2002.
- [Wiki] Wikipedia の項目 「MPLS」