研究や開発をしているときに,失敗したことを書いておくと他の研究者にやくだつことがあります. しかし,失敗談は基本的に論文には書けません. 従来は失敗談を書くのに適切な手段はほとんどなかったのですが, ブログはそれを書いておくのに適切なメディアだとおもわれます.
従来は研究における失敗談を紹介する適切なメディアが存在しませんでした. 失敗をかさねたあとおおきな成功がえられたのであれば,「プロジェクト X」や「プロフェッショナル」のようなテレビ番組でもとりあげてくれるでしょうし,本などにも書くことができるでしょう. しかし,結局成功しなかったり,ちいさな成功にしかつながらなかった研究に関する失敗談を書く場所はほとんどありませんでした.
いうまでもないことですが,失敗談は基本的に論文には書けません. 失敗談が論文査読をとおることはないでしょう. 論文としての価値は成功してえられた結果にあるからです. 査読のない論文ならば失敗談を書くことはできますが,場ちがいであることにかわりはないでしょう. それでも私は JMF (Java Media Framework) による開発の失敗談を研究会論文に書いたことがあります [Kan 04]. これは,その開発には成功した部分もあるので論文としての価値はあリ,失敗談をあわせて書いてもよいのではないかとかんがえたからです. 私がそうだったように,もしかすると JMF に過大な期待をもつひとがでてくるかもしれないので,書いておいたほうがよいとかんがえました.
この話題はブログ 「プログラム部品化の失敗例」 にも書きました. 研究会論文に書けば発表のときにはある程度のひとの目にふれますが,その後はブログのほうがひとの目にふれやすいのではないかとおもわれます.
追伸
Google で 「失敗 研究」 というキーワードで検索した結果,文部科学省の 失敗知識活用研究会報告書 (2001 年) をみつけました. 失敗知識をデータベースにたくわえるのが重要だと書いてありますが,たくわえた知識をどうやって活用するかは明記されていません. その後ブログが普及したことが蓄積と活用の可能性をたかめているとかんがえられます. なお,失敗知識の活用にかかわる情報はほかにもいろいろあるようです.
参考文献
- [Kan 04] 金田 泰, “仮想の ‘音の部屋’ によるコミュニケーション・メディア voiscape の JMF と Java 3D を使用した実装”,電子情報通信学会 技術研究報告 (DPS/CSEC 研究会),2004-3-5.