シャドーワークということばをつくったイヴァン・イリイチによるその定義は 「無報酬とされている仕事だが,何らかの経済行動の基盤を維持したり,支援したりするために不可欠な仕事」 だという. 本書の著者はシャドーワークをはっきり定義していないが,「上司の指示を待ったり,事前に相談したり,または許可を受けるようなことをせずに,自発的な非正規の行動を起こすこと」 がシャドーワークだと書いている. これはイリイチの定義とはあきらかにちがっていて,しかも,とくに 「非正規の行動」 というところがあいまいである. 本書でとりあげられている例をみると,著者がいう 「シャドーワーク」 には無報酬のものもあり報酬があたえられているものもある. また,仕事じたいも経済的に支援されているばあいとそうでないばあいとがある. 無報酬だったり支援されなかったりするときは,その 「仕事」 と会社との関係はよわくなるとかんがえられるが,本書では会社との関係がつよいケースばかりがとりあげられている. 私にはとりあげられている例の大半は本来のシャドーワークにあたらないようにおもえる. はっきり定義されていないことからもわかるように,著者にとっては実はシャドーワークという概念はたいした意味をもっていない,むしろ仕事における自発性に興味があるのだとかんがえられる. シャドーワークそのものに興味があった私は失望させられた.
評価: ★★☆☆☆
関連リンク: シャドーワーク 知識創造を促す組織戦略@ , シャドーワーク 知識創造を促す組織戦略@Amazon.co.jp.
追記:
仕事における自発性に興味があるのなら,NPO に関する話題をとりあげるとよいようにおもえる.
しかし,本書ではこれもとりあげられていない.
あまりに視点がせまいといわざるをえない.
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