日本の歴史とくに大東亜戦争をみなおそうといううごきが,「新しい歴史教科書をつくる会」 をはじめとして,さかんになっています. みなおしを主張するひとたちが問題にする点のひとつは,「南京大虐殺」 をうつしたとされる写真のおおくが虚偽にみちたものだという点です. この戦争に関するおおくの本のなかでその真偽が議論されています. しかし私は,戦争とは直接の関係がない本のなかでこの問題に関連する記述があることを発見し,重要な論点を提供していると感じました. それは,今野 勉 の 「テレビの嘘を見破る」 という本です.
この本のなか (p. 101-) で今野はつぎのように書いています.
1939 年に製作されたドキュメンタリー 「戦ふ兵隊」 のなかで作者の 亀井 文夫 はつぎのように書いています.
田んぼで稲刈りをしていた中国の農村の子供たちがいたので,撮影しようと車をとめたところ,子供たちは日本人を見て逃げだしたのです. と,亀井さんは子供たちを追いかけ,ひとりの少年をうしろから羽交いじめにして,恐ろしさでひきつっている少年の顔を三木さんに向けて,「三木君 ,これを撮れ!」 と命じたのです.
亀井さんに言わせれば,おびえている少年の顔は,日本軍の侵略におびえる中国の農民のひとつの顔として編集すれば,日中戦の真実をあらわす重要な映像となる,と考えたのでしょう.
亀井さんは,物事の本質は正しい歴史観,世界観をもてば見えてくる,という信念の持ち主です.
その信念は,昭和 4 年,21 歳のときから 3 年間にわたって遊学した社会主義国ソビエト連邦で得たものと推察されます.
目的が正しければ素材 (事実) を映画的に支配してもかまわない,という考えは,危険です. 私には同意しかねる考え方です.
著者のかんがえはともかく,当時,亀井のようなかんがえかたのもとにとられた映像 (映画,写真) は,日本側でも中国側でも多数あったのだとかんがえられます. 映像作家がどちらの立場にたっていたかによって,矛盾する映像がのこされたのは当然のことです. それを “でっちあげ” といって非難するのでなく,冷静な対応をすることがもとめられます.
今野はさらにつぎのように書いています.
ところで,再現を論じたこの小論文の中で亀井さんは,当時の戦争ニュース映画のある再現シーンの恐ろしい内幕を暴露しています.
中国兵 (蒋介石軍か八路軍か,わかりませんが) が日本軍に打ち倒される場面. 観客は戦場の迫力あるシーンに拍手をしていたのですが,実はこのシーンは,捕虜の中国兵の生命を犠牲にした再現シーンだと指摘しているのです. さすがに直接的表現は避けていますが,こう書いています.〈(このシーンは) 実は,世界に類例のない,最上級の豪華 (?) な,また冷酷なロケーションによって,撮影されたと聞いたら,人々は唖然とするだろう〉
これもまた,ころされたひとの数の多少はともかくとして,日中戦争における虐殺の一場面に関する証言のひとつであることはたしかです.