最近の日経エレクトロニクスで 「ユーザーの体験」 に関する記述をみて,user experience の訳語としての 「おもてなし」 ということばをおもいだしました. 「おもてなし」 といえば NHK の連続テレビ小説 「どんど晴れ」 のテーマがそれでしたが,このような 「おもてなし」 のこころがいまの機器やシステムの設計に欠けているものなのではないかとおもえます.
日経エレクトロニクス 2007.9.24 p.89 にはつぎのように書かれています ([ ] 内は引用者による).
ユーザーの体験 [user experience] という発想では,そもそもユーザーが何をしたいのかから設計を始める. ファクスでは,ユーザーはボタンを押したいわけではなく,紙の内容を複製して相手に送ることが目的のはずである. さらに,「こんなふうに送りたい」 「本当は手渡したい」 といった要求があるかもしれない. こうした要求を実現するために,機器やユーザー・インタフェースはどのような姿になるべきかを設計していくわけである.
これを読んでおもいだしたのが,user experience の訳語として 「おもてなし」 をつかっているのをどこかでみた,という記憶です. 上記の記述からはたしかに,「おもてなし」 のこころをよみとることができるようにおもいます.
Google でしらべてみると,すぐにみつかるのは 中島 聡 のブログです. ここでは user experience に関する話題がしばしばとりあげられていますが,「デジタルデバイドとユーザーエクスペリエンス」 へのコメントのなかで Naotake が 「Use Experience は 「おもてなし」 だと思っています」 と,ひとこと書いていて,それに対して賛成者が何人もでています. 中島 聡 もその後,「「おもてなしは大切」 をモットーにする会社」 などのなかでこの訳をつかっています.
上記の日経の記事でも iPhone (アイフォーン) がとりあげられていますが,Naotake も中島にこたえている 「World is beautiful」 のなかで Apple (Macintosh) (アップル (マッキントッシュ)) に言及しています. Apple のこころは 「おもてなし」 のこころということでしょう. 上記の日経の記事は機器としての iPhone につよくフォーカスしていて私はいささか不満を感じますが,日経エレクトロニクス 2007.7.30 p. 102 では Donald Norman (ドナルド・ノーマン) のことばが掲載されています. そこには 「携帯電話の契約を AT&T の店ではなく,WWW サイトで済ませる. これはまさに革命的だ.」 ということばがあります. 「おもてなし」 のこころは機器設計や狭義のユーザインタフェースにとどまらず,ユーザがすばらしい経験をするためにできることはすべてやるということなのだとおもいます.
「おもてなし」 といえば NHK の連続テレビ小説 「どんど晴れ」 のテーマがそれでした (ただし,こちらのほうが上記の議論よりずっとあと). このドラマは老舗旅館が外資に買収されそうになりつつも老舗の 「おもてなし」 をまもろうとしたものです. ここでの 「おもてなし」 は,やはり顧客のためになにをするべきかをよくかんがえて,通常は旅館でしないようなことまでふくめて,できることはなんでもやる,ということだとおもいます. このような 「おもてなし」 のこころがいまのおおくの機器設計やシステム設計に欠けているものなのではないかとおもえます. 読者のみなさんはどうおもいますか?
2011-7-20 追記: 日経ビジネス・オンラインの記事 「『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』著者が語る」 によれば,この本の著者カーマイン・ガロはアップル・ストアで意識しているのは 「ホテルのロビー、バー、サロンのような雰囲気」 であり,「参考にしているのは、世界最高峰のサービスを提供すると言われている、フォーシーズンズホテル」 であり,「単純に、アップルの製品を売るのではなく、顧客に上質な体験、思い出を提供することを、第一に考えられているの」 だという.