John Adams (ジョン・アダムス) は私が 1980 年代にはじめて出会った,かずすくない作曲家のうちのひとりです. 当時,日本ではまだほとんど知られていませんでした. いまは CD も入手しやすくなっているとおもいますが,まだよく知られているとまではいえないでしょう. ここでは Adams のいくつかの作品とそのおもいでを書いてみたいとおもいます.
私は 1970 年代にはかずおおくの作曲家の作品に出会いました. Mahler (マーラー) とであったのも 1970 年代にはいってからだったかもしれません. その後,Schönberg (シェーンベルク),Berg (ベルク),Webern (ウェーベルン),Stockhausen (シュトックハウゼン),Henze (ヘンツェ),武満をはじめとする日本のおおくの作曲家などと出会っていきました. あまりに数がおおいので,すべてをここに書くことはできません.
しかし,1980 年代にはいると,あらたな作曲家とのであいはへっていきました. Adams をのぞくと Shaefer (シェーファー) くらいしか,すぐにはおもいつきません. そういうなかで,1947 年うまれの米国人の作曲家 Adams との出会いはかなり印象的でした. 最初に発見したのはあるレコード店の店頭です. どの店だったかははっきりおもいだせませんが,そこには Adams の Harmonium という合唱とオーケストラの曲の LP がありました. そのとき Adams という名はまだ知らなかったのですが,あたらしい音楽との出会いをもとめていた私は,なんの気なくその LP を買いました. そして,Harmonium に感動し,さらに Adams の曲をききたいとおもいました. Adams はミニマル・ミュージックの作曲家として出発しましたが,Harmonium にはすでにそれとはちがった要素もふくまれています. 持続的な音,ゆっくりとムードを変化させながらクライマックスにみちびくやりかた,そこに Adams の個性を感じます. Harmonium はおなじ Edo de Waart (エド・デ・ワールト) の演奏をいまも CD で入手することができます (ECM 821465) が,Adams 自身の指揮による演奏もあります (Nonesuch 7559.79549). 後者の写真をのせておきますが,ここには Adams 自身がうつっています.
それからしばらくして,石丸電気の店頭でみつけたのが Steve Reich (スティーブ・ライヒ) の曲とあわせて CD 1 枚になった Shaker Loops (1978, rev. 1983) というオーケストラ曲です. この曲にも Harmonium と同様の Adams らしい特徴があらわれています. これは Adams の出世作であり,CD も何枚かでています. いま一番入手しやすいのは Marin Alsop が指揮している Naxos の CD だとおもわれます (Naxos 8.559031). この CD にはほかに The Wound Dresser (包帯係, 1988) などの曲もふくまれています. 1978 年から 1988 年までのあいだに Adams の作風はだいぶかわっていて,この CD ではその両方がきけるわけです.
Adams の作品のなかにはオペラもいくつかあります. もっとも有名なのは Nixon in China (リンク先は CD) だとおもわれます. これはニクソン大統領が国交回復のために婦人とともに中国にいき,毛沢東主席や江青婦人と会うさまをえがいたオペラです. このオペラが書かれたのは毛沢東が死に,江青とニクソンが失脚したあとのことですが,オペラそのものは当時の雰囲気をできるだけそのままつたえようとしています.
Adams はほかにも The Death of Clinghoffer, El Niño (リンク先はいずれも CD) などのオペラを書いています. The Death of Clinghoffer は 1985 年におこった客船のハイジャックをテーマとした作品です. Clinghoffer はこの事件でハイジャック犯に殺された乗客のなまえです. 写真はこのオペラの DVD の表紙です. この DVD はリージョン・フリーなので,Amazon.com などからアメリカ向けのものを入手すれば日本でも再生できます (2007-11-4, 2009-9-28 追記).
これらのオペラについては Wikipedia (ウィキペディア) の ジョン・クーリッジ・アダムス の項目に,つぎのようなすぐれた解説があります (2007 年 10 月現在).
ジョン・アダムズの作品のうち、最も有名で最も広く言及される作品は、歌劇《中国のニクソン》である。これはヒューストン大歌劇場により1987年に初演され、1989年にグラミー賞現代音楽部門最優秀作品に輝いた。この作品では、ピーター・セラーズの監督とアリス・グッドマンの台本、マーク・モリスの振付けにより、現代史の場面をオペラハウスへ鮮やかに移し替え、ポストモダンの舞台音楽のあらゆるジャンルの草分けとなった。セラーズ自身の演出は、ニューヨーク、ワシントンD.C.、アムステルダム、エディンバラ、ロサンジェルス、パリ、アデレード、フランクフルトで舞台化された。新しい演出は、ヘルシンキ(芬語上演)とビーレフェルト(独語上演)において制作され、演奏会形式での上演は、近年ロンドンやタリンにおいて行われた。
2作めの歌劇《クリングホファーの死》は、再びセラーズ、グッドマン、モリスの協力を得た作品で、ブリュッセル歌劇場において1991年に初演された。ニューズウィーク誌の評論家カトリン・エイムズによって「人の心を掻き立てる作品」と評価されたこの作品は、リヨン、ウィーン、ニューヨーク、サンフランシスコで上演され、英国初演はBBC交響楽団によって2002年1月作曲家週間のアダムズ特集において行われた。次の舞台作品は、ピーター・セラーズと台本作家ジューン・ジョーダンとの共作、ソング劇《天井を見てたら空が見えた》である。7人の歌手と、舞台上の8人の器楽奏者のために作曲されている。初演は1995年5月にバークリーで行われ、欧米の各地で上演された。最新のオペラ《原爆博士》もセラーズとの共作で、2005年10月1日に初演された。「原爆博士」とは、ひとえにロバート・オッペンハイマーのことであり、演技は原爆の最初の実験が中心とされている。
なお,ふつうは省略されているミドル・ネームが Wikipedia の項目名にはいっているのは,John Luther Adams というまったく別人の作曲家とはっきりくべつするためだとおもわれます.