「ニコニコ動画 関係者ブログ」 には 「昔話」 としてニコニコ動画の開発とサービス開始のいきさつが書かれています. ニコニコ動画はネットニュースやブログなどでさんざんあつかわれていますが,ほとんどは表面的にとらえるだけにとどまっていて,「昔話」 に書かれているようないきさつや背景などについてはほとんど書かれていません. これは非常に刺激的で貴重な記録だとおもいます. ニコニコ動画はやっぱりスゴイ!
「昔話」 は関係者ブログのなかに,あまりめだたないかたちで,つぎの 6 回にわけて,うめこまれてしまっています.
- 2007年08月13日 22:54
- 2007年08月14日 13:31
- 2007年08月15日 17:06
- 2007年08月16日 00:22
- 2007年08月16日 12:41
- 2007年08月16日 15:38
各回から私がとくに興味をひかれた部分をぬきだしてみます.
第 1 回
「どうぶつの森のような非同期コミュニケーション」 がニコニコ動画につながっていったことが書かれています.
非同期コミュニケーションはドワンゴがネットゲームが主力ビジネスだったころから意識しており、ネットにおいて同期型コミュニケーション(WEBサービスや多くのネットゲーム)に比較して非同期コミュニケーションの代表であるメールがまったく進化していないのはおかしい、というのが、メールポータルを目指してニワンゴがつくられた大きな理由のひとつです。
N64 版のどうぶつの森のような非同期コミュニケーションの要素をMMO型のシステムに持ち込むことは可能ではないかと考えており、それを携帯での放送アプリでありパケラジの次期システムの目玉にしようというのが、そのそもの出発点でした。 われわれの構想するネットライブ(パケラジ2.0)は、放送がはじまったときは3人しか観客のいないライブが非同期的にユーザーが参加することにより、翌日には100人に増えているというようなものです。
この回には synvie についても書かれていますが,それについてはべつのエントリー (「コメントがつけられる動画サービスの起源」) で書いたので,ここでは省略します.
第 2 回
ニコニコ動画のおおきな特徴はコメントが動画とオーバレイされることです. 第 2 回から第 3 回にかけて,なぜこのようにデザインされたのか,そのいきさつをえがいています.
最初のプロトタイプでは synvie や後のニフニフ動画と同様に、動画とコメントとは別々のウィンドウに表示されていました。 ただし、コメント欄は動画の下部ではなく右側に設置しました。 動画とコメント欄が上下に分かれていると、必要な視点の移動が激しすぎて片方にしか集中できないためです。 左右であれば視点移動もあまり困難でなく両方を視界におさめることが可能です。
第 3 回
期待にたがわず布留川君は3日ほどで新しいプロトタイプをつくってきました。ところが彼がつくってきたものは我々が期待したものとは違うものでした。 動画と別ウィンドウのコメント欄など存在せず、すべてのコメントは動画の上にオーバーレイされて右から左へと流れていきます。しかも、すべてのコメントにはランダムで決められたカラフルなカラーがついていました。
コメントの動画へのオーバーレイはオプションとして考えてはいたものの、それをメインにするという発想はだれももっていませんでした。あくまで、別ウィンドウのコメント欄がないと動画そのものが見づらくなってしまいます。しかし、もともと実況板の臨場感を目標としていたわけですから、盛り上がるところで動画の画面がコメントで埋まってみえないという光景を想像すると、とても魅力的でした。
ジョーシキ的には動画がコメントでうまってみえなくなるなんて,とんでもない,とかんがえるところを 「魅力的」 といっているところがおもしろいですね.
第 4 回
YouTube (ユーチューブ) の反応をよみまちがえたということですね.
当然のように最大の関心事は youtube はこの動画サービスについてどういう反応をするだろうか?ということでした。 おそらく当面は考えなくてもいいだろうということでは、ほぼ全員の意見が一致しました。
第 5 回
「現在のネット業界の常識,定石をすべて完全否定する」 ということで,インパクトがあります.
サイトのコンセプトは 「やる気のなさ」 に決まりました。 全力をあげてやる気のなさを演出するということがテーマです。既存のネットサービスは、「はい、こういう新しいコンセプト、ビジネスモデルを考えました、どうですか?面白いでしょう?すごいでしょう?」 と自己主張しているものが多いように見えたのです。 そしてそのメッセージが向いている方向はユーザではなく投資家です。ユーザにとっては面白くもなければすごくもない。サイト名称のつけかたひとつとっても、下心が透けて見えます。
われわれはそういった現在のネット業界の常識、定石をすべて完全否定するところからスタートすることにしました。 名称もいかにもいいかげんに名付けたようにしかみえない(実際に5秒できまった)ニコニコ動画にしました。永遠のβサービス?ふざけんな、ということで、名称にはβではなく(仮)をつけることにしました。
第 6 回
ユーザとの関係もジョーシキをくつがえそうということです.
ふつうのサイトはユーザをお客様として、すくなくとも表面上は丁重に扱いますが、ニコニコ動画はユーザを甘やかさないで対等の関係でつきあうことに決めました。
むしろユーザとのコミュニケーションはユーザーとの勝負の場と捉えて、運営側の特権もためらわず利用しながら積極的に優位にたとうと戦うことにします。
これ以外の部分もとても興味をひかれますが,全部引用するわけにもいかないので,ここまでにしておきます.
注 (2010-8-12 追記): 写真は借用したものであり,写真からもとのサイトへのリンクがはってあります.