クセナキス (Xénakis) というギリシャの作曲家は数学的な理論をつかって作曲したことで有名です. 数学をつかうということは,アルゴリズムによる作曲 (algorithmic composition) をおもいおこさせます. しかし,アルゴリズムによって音がきめられてしまうような音楽が人間のこころにひびくとはおもえません. クセナキスの曲にはたしかに,アルゴリズムできめたのではないものが感じられます. それは,おそらく,数学的な理論をつかいながらも彼自身がえらびとった音だとかんがえられます.
クセナキスの曲のなかには群論をつかった曲などもあります. しかし,かれを有名にしたのは確率論をつかって作曲したトーン・クラスターによる曲です. 確率論をつかう,つまり乱数をつかって音を選択するのは本来の意味でのアルゴリズムではありませんが,機械的に音が選択されるという点ではアルゴリズムとおなじです. 乱数だけでえらびとられた音がひとに感動させるちからがあるとはおもえません.
実際にかれがどういう方法で作曲していたのかはしりません (クセナキス本人はすでに故人になってしまいましたが,弟子だった 高橋 悠治 ならば知っているでしょう) が,乱数をつかってつくったフレーズのなかから,かれ自身が選択していたのだとかんがえられます. 恣意的な選択がはいったとたんに乱数の意味はうすれてしまうとおもわれますが,その点ではいわゆる 「管理された偶然性」 もおなじです. 20 世紀の音楽はこういう dirty な方法で作曲されてきたのだといえるでしょう.