ニコニコ動画のコメントについてはいろいろ書いてきましたが,それは掛け声のようなものだと,いまになって気づきました. 歌舞伎では 「掛け声」,オペラでは同様の行為が 「クラック (claque)」 とよばれています. ニコニコ動画やそれにつづくメディアがこういう伝統的な行為をどう発展させていくことになるのか,あるいはそうならないのか,興味がもてます.
たとえば初音ミクの動画にコメントをつけるという行為は,タレントのコンサートにいって声をかけるようなものです. ただし,コンサートなら歌手にリアルタイムに掛け声がとどくのに対して,ニコニコ動画につけたコメントを作者がみる保証はありませんし,すくなくともすぐにみることはありません.
それはともかく,掛け声をかけるという行為に関しては,歌舞伎では Wikipedia の 「大向う」 の項目にも書いてあるように,確立された様式 (スタイル) があります. ニコニコ動画のコメント弾幕と歌舞伎の掛け声との類似性はすでに medtoolz のブログ 「レジデント初期研修用資料 ニコニコ動画と歌舞伎」 において指摘されています.
Wikipedia の 「大向う」 にはちゃんと 「クラック (claque)」 が関連項目としてあげられています. オペラも伝統ある芸術なので,クラックにも様式があり,上記の Wikipedia の項目にもそれが記述されています. しかし,すくなくともこれらをみるかぎりは,歌舞伎の掛け声のほうが洗練されているようにおもえます. クラシック音楽は基本的にはだまってきくものなので,あまり派手な掛け声はかけにくかったのではないでしょうか.
ニコニコ動画の 「掛け声」 にもある程度,様式がみてとれるようにおもいます. ニコニコ動画にしても歌舞伎にしても,「掛け声」 はすべての観客にとどくため,演目にとけこまなくてはなりません. そのために周到な準備が必要だという点も共通していて,そこから様式が発生してくるのだとかんがえられます. これから 「掛け声」 がニコニコ動画のうえで,あるいはそれにつづくメディアのうえでどのように発展していくのか,興味があります.