これからは,としをとってもパソコンをつかうことが必要になるでしょう. 足腰がよわくなれば,ひとにあいにいくのはおっくうになります. そういうとき,メイリングリストなどによるやりとりがそれにかわっていくとおもえます. したがって,これからは高齢者でもつかいやすいパソコンを開発することが重要になるはずです. ここではマウスを中心にかんがえてみます. ただし,かならずしもマウスやその操作を改良することが目的なのではなくて,マウスというものじたい,あるいはデスクトップ・メタファーというものをみなおしたほうがよいかもしれません.
最近,「ユニバーサル・アクセス」 ということばが,よくつかわれるようになりました. 最近はあまりつかわれなくなりましたが,「バリアフリー」 というのも,それにちかい意味をもっています. いずれも,一種類のしくみ (コンピュータであればユーザ・インタフェース) をだれでもつかえるようにするというニュアンスがあります. しかし,だれでもつかいやすい一種類のしくみをつくる必要はかならずしもなくて,シニアの人口がふえればシニアに (だけ) つかいやすいしくみをつくればそれでよいのだとおもえます.
一般のひとにとって,マウスはつかいなれて,もはや,てばなせない道具になっているでしょう. しかし,マウスの操作は高齢者にはかならずしも,つかいやすいものではありません.
ダブル・クリック (double click) が高齢者などにとってつかいにくいことは以前から指摘されています. そのため,たとえば Microsoft Windows においてはダブル・クリックをさけて,基本的にシングル・クリックだけでウィンドウ操作ができるように設定することができます.
また,私の母などをみていると,ドラッグ(drag) という操作もあまりやりやすい操作ではないようにみえます. とくに,ドラッグ・アンド・ドロッブ (drag'n drop) は,私でも目的地に達するまえに指をはなしてしまうことがしばしばあるので,としをとるとさらにつかいにくくなるでしょう. 途中ではなしてしまうと,しばしばパニックにおちいります.
ドラッグの応用のひとつとして拡張選択がありますが,これも母が苦手な操作のようです. 必要な要素を全部選択するまえにはなしてしまいがちです. しかし,そもそも拡張選択という概念自体があまり自然なものではないので,おぼえにくい,あるいはつかいたくないようにみうけられます. パソコンの画面環境はデスクトップ・メタファーとよばれますが,実際の机のうえにあるものをあつめるときには,拡張選択とはかなりちがう操作をするはずです. たとえば,「かきあつめる」 という操作はあつめる対象をうごかしますが,拡張選択ではアイコンはうごきません.
そもそも,マウスのボタンは,おしてもわずかしかうごきません. 通常のキーボードのキーであれば数 mm うごきますし,うごきのすくないノート PC のキーボードはつかいにくいのですが,マウスのボタンは 1 mm もうごかないのに,だれももんくをいわずにつかっているのはなぜなのでしょうか? それはクリックをはっきり感じることができるからなのでしょうが,それはたぶん,としをとると感じにくくなるはずです. すくなくとも高齢者むけには,もっとうごきがおおきいほうがよいのではないでしょうか?