「放送通信融合」 ということばはあいまいで,私にはいまだにその意味がよくわかりません. しかし,すくなくともそれには 3 つの側面があることがわかります. ここではそれぞれの側面についてかんがえてみたいとおもいます.
第 1 の側面は日本の放送と通信は制度的に分離されていて,これから何年かのあいだにそれらが融合していくだろうということです. 制度にもいくつかの面がありますが,とくに放送と通信とをわけている法制の問題があります. ここでは具体的な法制にはふれませんが,これまで分離されていた法制を融合させる必要があるということです.
第 2 の側面は技術的な融合です. アナログ技術がつかわれているあいだは放送の技術と通信の技術とのあいだにはギャップがありました. しかし,デジタル技術としては両者のあいだのギャップははるかにちぢまっています. アナログ電話が IP 電話などによっておきかえられ,またアナログ放送がデジタル放送によっておきかえられることによって,両者は技術的に接近することになります. そして,NGN が両者を融合する技術だといわれています.
第 3 の側面は放送や通信にかかわる個人や組織に関する融合です. 放送に関してはコンテンツ制作者,放送業界,視聴者などがかかわっています. また,通信に関してはキャリア,各種のプロバイダ,エンドユーザなどがかかわっています. 放送の視聴者と通信のエンドユーザはどちらも消費者ですが,放送と通信とではかかわりかたがちがっています. おなじ消費者だから最初から融合されているというわけではありません.
これらのうち最初の 2 つの側面に関してはさまざまな議論がなされ,本もたくさんあります. しかし,第 3 の側面については,まだ十分に分析されているとはいえないようにおもえます. 第 3 の側面としてコンテンツからユーザまでひっくるめてかんがえましたが,これらは立場ごとにわけてかんがえなければならないことはもちろんです. 放送業界や通信業界に関してはさまざまな本などで論じられています. また,コンテンツやそれにかかわる制度についてはたとえば中村 伊知哉著 「「通信と放送の融合」 のこれから」」 において分析されています. しかし,消費者についての分析は十分ではないのではないでしょうか? 私にはまだこの側面において,ほんとうに放送通信融合がおこるのか,疑問を感じています.
つまり,この側面での放送通信融合とはテレビをみるという行為と通信する,つまり Web をアクセスしたり,メイルをよみかきしたり,電話をかけたりする行為とが融合するのかどうかということです. 「Web テレビ」 のようなメディアがさんざんこころみられながら失敗しつづけていることが,私が疑問をもつ理由です. 最近では携帯電話にワンセグ受信機能がついたことがみかけ上の融合を象徴しているようにおもいます. しかし,これは携帯電話という通信機器に放送受信機能をつけたにすぎず,実は両者はまったくまざっていないわけです.