この 10 年くらいのあいだに世界は急速に変化し,今後も急速な変化がおこることが予測されています. ここ 10 数年,日本は停滞した状況にありましたが,それゆえに世界との関係はかえって急速に変化し,それにともなって今後は日本も急速に変化することが予想されます. こういうなかで,我々はどちらにすすむべきなのでしょうか? すこしかんがえてみたいとおもいます.
世界の急速な変化をもたらしいている原因としては ICT 技術をはじめとする技術革新もあげられますが,最近の変化の直接的な原因は中国とインドを中心とする経済発展です. そのためとくに最近は食糧の不足とその価格の急激な上昇,石油をはじめとする資源価格の急激な上昇がおこっています. 今後は環境の悪化とくに温暖化が深刻な問題となっていくでしょう. 食糧に関しても今後数年で生産もふえて価格上昇がおさえられるとかんがえられてはいますが,食糧も他の資源も価格が低下するとはかんがえられていません.
こうしたなかで,これまで日本での生産がコスト的にひきあわなくなっていたさまざまな食糧や資源がペイするようになる可能性がでてきています. 農業においては,食用の米はもちろんですが,米,大麦をはじめとする飼料用の作物が栽培されるようになってきました. 林業においても,これまでほとんど放置されていた間伐材も出荷できるようになりつつあるということです. 鉱業についていえば,規模はかぎられているものの,露天掘りの石炭の生産量もふえているということです.
コストに関していえば,20 年前には日本は平均賃金が非常にたかくて,こうした産業はペイしませんでした. しかし,近年は平均賃金がむしろ低下したうえドル以外の通貨たとえばユーロなどに対しては円安になっているので,コスト的にも以前より有利になっています. 正規雇用と非正規雇用とで賃金におおきな差があることは不合理ではありますが,熟練を必要としない職種に関しては国内でも安価な労働力がえられて,以前はペイしなかった産業にも可能性がでてきたことを意味しているようにおもいます. これで日本の第 1 次産業をある程度復活させることができるのではないでしょうか? ここで 「復活」 といっても,むかしにもどるわけではないので,こうした 「産業革命」 のためには技術革新が必要であり,これまで重視されてきた IT 産業の技術革新より,こうした技術革新のほうが重要になる可能性があるのではないでしょうか? (もちろん 「産業革命」 のためにはあたらしい IT 技術も重要でしょうが…)
とはいえ,日本の陸地の面積はかぎられていて,作物や陸上の資源の生産を大幅にふやすことは困難です. それに対して,日本が島国であり,まわりにひろい海があることが,今後の日本のつよみになる可能性がでてきています. 世界での魚の需要がたかまるにつれて,日本の商社などが魚を輸入するのがむずかしくなっています. しかしそもそも,かつて日本人が魚をおおくたべるようになったのは近海におおくの魚がいるからにほかならないので,水産業には可能性があるといえるでしょう. 水産業だけでなく,日本の周囲にはメタンハイドレートのようなエネルギー資源があります. これらの資源はずっと以前からその存在がしられていながら,石油が安価なあいだは開発することができませんでした. しかし,今後は石油価格が低下することはないとかんがえられるので,開発が可能になるでしょう.
これらの資源は日本固有のものとはいえないでしょう. 魚は世界中の海にいますし,メタンハイドレートは他のエネルギー資源の代替品にすぎません. しかし,日本固有というか,ほかのおおくの国にないつよみとして,水資源があげられています. 現在,世界のおおくの国では水が不足してきています. 中東やアフリカのような砂漠地帯はもちろんですが,中国,インド,アメリカなどにおいては内陸の部分がおおいため,水が不足する,あるいは良質の水を確保するのが困難です. それに対して日本ではまわりを海でかこまれているため,降水量がおおく,水を確保するのは比較的容易です. 国内で水が潤沢につかえるのはもちろんですが,海外戦略にもつかえることが指摘されています.
こうした日本の将来像はまだ明確にえがかれてはいません. ひとによっては食糧自給率の低下など,従来の傾向が今後もつづくことを警告しているひともいます. 将来像をもっと明確化して,日本のつよみをのばしていくことが必要だとおもいます. こうしたなかで,私自身もそうですが,これまでやってきた仕事にとらわれずに,自分がこれからの日本においてなにをするべきなのかを,ひとりひとりがかんがえるべきときがきているのではないでしょうか?