Amazon.co.jp や他の書籍サイトで 「電子マネー」 を検索すると,40 冊ちかい本がみつかります. しかし,その大半は 1990 年代に出版されたものです. それらの本と最近に出版された比較的かぎられた数の本の内容をくらべると,わずかしか,かさなりがないことがわかります. この事実が,第 1 世代と第 2 世代のあいだに断絶がある電子マネーの歴史をものがたっています.
電子マネーに関する私自身の経験を 「きえさった電子サイフ型電子マネーとその理由 (?)」 に書きました. 私にとっては 「電子マネー」 ということばは,いま私がつかっている Suica (スイカ) や Felica (フェリカ) よりも DigiCash,Visa キャッシュや Mondex (モンデックス) にむすびついていますが,最近の本はこれらにわずかしか言及していません.
そのギャップをうめたいとおもって Web 上の情報や本をさがしましたが,十分にはうめられていません. いま,てもとにある本はつぎの 4 冊です.
- 岩崎 和雄,佐藤 元則 著 「電子マネーウォーズ」,産能大学出版部,1995.
- NTT グループ・電子マネー研究会 編著 「手にとるように電子マネーがわかる本」,かんき出版,2000.
- 岩村 充 著 「電子マネー入門」,日経文庫,1996.
- 岡田 仁志 著 「電子マネーがわかる」,日経文庫,2008.
「電子マネーウォーズ」 はずっとまえに買った本です. 「手にとるように電子マネーがわかる本」 は,最近 NTT の 「電子マネーのキホン」 という Web ページをみて,それにちかい内容がかかれていることを期待して買ったものです. 日経文庫の 2 冊も最近に買ったものですが,内容を比較したいとおもって買いました.
「電子マネーウォーズ」 はまだ電子マネーがすすむ方向がわからないなかで絨毯爆撃的な内容になっていて,しかもよのなかがすすんだ方向はその予想からはずれているので,あまりつよい印象をあたえません.
「手にとるように電子マネーがわかる本」 は期待したとおりの本でしたが,「電子マネー入門」 とともに,当時は電子マネーの中心技術とかんがえられていた暗号技術の説明にかなりのページをさいています. それに対して,「電子マネーがわかる」 もそうですが,最近の本は暗号技術にほとんど言及していません. 暗号技術が不要になったわけではありませんが,中心技術からはすべりおちてしまったことを象徴しています.
登場する電子マネーも,「手にとるように電子マネーがわかる本」 においてはゲルトカルテ (ドイツ),Visa キャッシュ,モンデックス,NTT 電子マネーなどの第 1 世代のものですが,「電子マネーがわかる」 においてはまず Suica,Icoca,nanaco,Edy,おサイフケータイなどの第 2 世代の電子マネーがでてきます. また,中心技術としては非接触 IC カードがとりあげられ,フェリカのほかに ISO 14443 によって標準化されたタイプ A,タイプ B の非接触 IC カードがくりかえし登場してきます.
しかし,この本はモンデックスやゲルトカルテにも言及しています. また,つぎのような,ギャップをうめる記述もあります (p. 154).
ドイツとフランスの国家の威信をかけて推進した電子マネープロジェクトは,上からの改革と市民の感覚のずれを埋めることはできず,電子マネー社会へと移行する大きな変化の流れを作り出すことはなかった. ヨーロッパでは電子マネーが表舞台に姿を見せることもなくなり,やがて東アジアでは電子マネーが爆発的な流行を見せることになる.
ギャップをうめるという点では,すでに電子マネーがおちめになっていた 2000 年に出版された 「手にとるように電子マネーがわかる本」 には,第 1 世代の電子マネーの問題点がかなりくわしく分析されています. ここにはその項目だけを引用しておきます.
- 感覚的な歪
- 貨幣価値の歪
- 商法上の歪
- 電子マネー技術の生む歪
- 刑法上の歪
- 税法上の歪
- 金融政策上の歪
- デジタルデータが招く歪
これらのなかでも最初の 「感覚的な歪」 が強調されていますが,それは上記の 「電子マネーがわかる」 から引用した記述の内容と一致しています.
この本ではまた,モンデックス,ゲルトカルテなどを比較して,それらの特徴がよくわかるように記述されています. これらの電子マネーは失敗したとはいえ,歴史的には価値があるものです. したがって,この本は絶版になっているようですが,おしいとおもいます (Amazon.co.jp では古書として入手することができます).