NTT 東日本の ICC (InterCommunication Center) が自宅からあるいてもいけるオペラシティにあります. こどもをつれて,きょう 8 月 31 日が最後の 「ICC キッズ・プログラム 2008」 と来年 3 月までの 「OPEN SPACE 2008」 をみてきました. どちらも,こどもにとっても私にとっても,たのしむことができる展示会でしたが,いささか不満な点もありました. とくに OPEN SPACE 2008 のほうは,作者が意図した方向に体験者をガイドできていない作品がめだっているようにおもえました.
ヴィジュアル・プログラミング体験展示
まず ICC キッズ・プログラム 2008 の (?) ヴィジュアル・プログラミング体験展示の PC がひとつあいたので,こどもを中心にやってみました. あるヴィジュアル・プログラミング環境をためすようになっているのですが,重力やまさつといった物理的なモデルがあらかじめくみこまれています. そのため Logo や SmallTalk のような汎用性はないものの,直観的にわかりやすいふるまいがかんたんにつくれるようになっています. すぐにつくれたのは,ひとがボールをドリブルするくらいのものですが,サンプル・プログラムとしては玉いれゲームのようなものもあって,なるほど,このくらいのものがつくれるのか,と感心しました.
同列の展示がいくつかあり,また 「ビスケット (Viscuit)」 という別のヴィジュアル・プログラミング環境のワークショップもおこなわれていましたが,そのための PC はふさがっていて,できませんでした.
君の身体を変換してみよ展
キッズ・プログラムの一部として 「君の身体を変換してみよ展」 というのがありました. いろいろためしてみましたが,そのなかの 「計算の庭 2007」という作品をこどもとともに私もためしてみました. 私は 2 と書かれたカードをもらって,「×3」,「+4」,「÷2」 などと書かれたゲートを通過するたびにその演算がおこなわれて,結果が 73 になったらおわりというゲームです. こどもがさきに出発して,3 秒後に私が出発しましたが,ちょうど 3 秒ずれて完了しました. つまり,まったくおなじ時間で問題をときました. ただし,ゲートの通過数は私のほうがすくなかった,つまり,かんがえている時間がながかったということです. (写真は ICC の Web サイトから借用. 以下の写真も同様.)
VP3L (OPEN SPACE 2008)
OPEN SPACE 2008 のほうもコンピュータやセンサの技術をつかったインタラクティブな展示ですが,もうすこし複雑でおとなむきです. VP3L (Visual Programming for 3D Language) という展示は音響プログラミング言語を展示したものということです. たしかにうごかしているうちに音がでましたが,たいていのひとは音よりも 3 次元空間をナビゲートすることに興味をもっているようでした. 仮想的な 3 次元空間のなかで回転すると,遊園地にある回転する部屋 (ビックリハウス) で体験するような感覚をこどももわたしも感じていました. これだけで体験としては十分におもしろいものでした.
音響プログラミングにあらかじめ興味をもったひとであれば,作者の意図どおりの体験をしたかもしれません. しかし,たいていのひとは,よく説明をよまず,なにもかんがえずに操作しはじめます. すると,どうしても作者の意図からははずれてしまいます. それでもよいとかんがえるのであればよいのですが,もしそうでないのなら,音響体験にむけてガイドするしかけが必要だとおもいました. (写真は私たちが体験した雰囲気をつたえていませんが,適当なものがないので,これをつかいました.)
invertone (OPEN SPACE 2008)
これも Web 上の説明を読むと 「空間には,2本のスピーカーが向かい合い,そこから発されたホワイトノイズが空間全体を均質に満たしています.スピーカーの間にたたずむと,ちょうど中間の地点においてノイズが消え,無音がそこを支配します.」 ということなのですが,なにもかんがえずに実際に体験してみると,かなりちがった印象をうけました. スピーカーは耳からはだいぶはなれたところにある,それなのにノイズが耳のそばやあたまのなかからきこえます. 無響室になれていればとくにめずらしいことではないのでしょうが,無響室になれていないひとにとっては,音がきこえなくなること以上に,これがふしぎにおもえます.
この展示は VP3L とはちがってプロむけのツールではないので,一般のひとがうける印象がそのまま作品の価値につながっているとおもえます. したがって,作者の意図とはちがう世界が実現されているのだとおもいました. (ICC にあった写真はみたものとだいぶちがうので,ここにはのせませんでした.)
情報を降らせるインタフェース (OPEN SPACE 2008)
これは手をだすとそのうえに文字やいろいろなかたちを投影してくれるしかけです. 説明をちゃんと読むとさらに両手をくっつけたりすることであらたなことがおこるということでした. しかし,説明をよまないと,まず手をかざさなければならないということにすぐには気がつきません. 手をくっつけると変化がおこるということにも,なかなか気づきません.
よいインタフェースはマニュアルをよまなくてもわかるべきだとおもいます. この作品は 「研究開発コーナー」 にあるので未完成のものであり,それはやむをえないことなのかもしれません. しかし,やはりもうすこしくふうして,手をかざすように,また両手をくっつけるようにガイドするしかけがあればよかったようにおもいます.
TENORI-ON (OPEN SPACE 2008)
TENORI-ON はヤマハから製品化されている作曲・演奏のツール (楽器) です. まだあまり知られていないので,ここに展示しているのでしょう.
マトリクス状にならべられた発光ダイオードのうえをなぞることで,それに対応する音がでるようになっています. ユーザ・インタフェースとしてはかなり限定されているとおもいますが,汎用性をすてて,直観的にあつかえるようにしているということなのでしょう.
全体的な印象
Logo や SmallTalk のようなプログラミング環境は汎用性をもとめていました (ICC でも 2002 年には ToonTalk のワークショップや AgentSheets のワークショップをひらいていましたが,2003 年以降,「ビスケット」 をとりあげているようです. それに対して,きょうさわってみたプログラミング環境は汎用性をすてることによって,わかりやすく,かんたんにたのしめるようになっています. こどもが対象であるときには,このわかりやすさ,かんたんにたのしめることがとくに重要です. そのため,キッズ・プログラムに用意された作品たちはインタラクションの方法がかなり限定されています.
しかし,対象がおとなであっても,特別な訓練をうけているのでなければ,やはりわかりやすさが重要です. 説明をよまなくても意図した方向にガイドされるようにする必要があり,おおくの作品はそれに失敗していたようにおもえます. いいかえれば,かつての現代音楽のようなわかりにくさがあったようにおもいます. TENORI-ON が製品にまでなっているのは,体験者を自然にガイドすることに成功したからなのだろうとおもいます.