ケインズの 「一般理論」 は難解だが,この本はそれをできるだけ平易に解説しようとしている. 単に解説するのでなく,その 「あやまり」 をただして,著者独自の 「不況動学」 をきずこうとしている. 小島寛之は Wired Vision の 「環境と経済と幸福の関係」 のなかでこの本をベタぼめしているし,Amazon の書評などでも評価はたかい.
しかし,ケインズにあやまりがあったとしたら,それは動学的な経済理論のむずかしさゆえであり,おなじような道具でそれにたちむかっている著者がケインズにくらべてとくに有利なところがあるとはおもえない. というわけで,この本にも疑問な点は多々ある.そもそも出発点となっている,ケインズが流動性の罠から投資の限界だけがきまるとしているのに対して 「不況動学」 ではそれが (投資の限界とは独立に (?)) 消費の限界もきめるとしていることからして理解できない. また,現在の不況との関係を把握したいが,さっぱりわからない.
この理論が 「動学」 だと主張するためには単に経済の均衡点をしめすだけでなくそこにいたる軌跡まできめられなければならないはずだが,それにはまったくふれていない. 金融工学のような精密な論理がなければ,ひとを納得させることはできないのではないだろうか.
評価: ★★★☆☆
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