日本の学者はちょっとしたことで学会発表を中止するというので,海外では不思議がられていると朝日新聞が報じている. 私自身は 9.11 の直後にオーストラリアでのポスター発表をキャンセルしなければならなかったが,このときはテロの危険があるとほんとうに信じられていた. ところが,今回は弱毒性とわかっている新型インフルエンザのために,またしても AICT 2009 という学会でのオーラル発表をキャンセルせざるをえなくなってしまった. 自分自身はキャンセルするべきでないとおもっているにもかかわらず,キャンセルしなければならないのは,もどかしい.
朝日新聞によると,最近,大阪や兵庫の学会が中止されたり延期されたりしているが,つぎのようにも書かれている (「学会の中止や延期相次ぐ 大阪・兵庫で開催予定」 (2009 年 5 月 20 日)).
感染が確認された米国など海外での学会を欠席する日本人研究者もいるという.
「科学的な判断が可能な皆様には,過剰反応ではない客観的な判断をお願いします」. レーザー技術の日本人研究者ら約 190 人にこんなメールが届いた. 31 日から米国メリーランド州で開かれる国際学会への参加呼びかけだ.
日本の研究者の学会欠席が目立つ――. こんな指摘があるとメールに書かれていた. 「なぜ日本だけが……」 と不思議がられているという.
こういう,日本人が世界の常識からかけはなれた行動をとるという事態をさけるために,できるだけのことをしたいとおもう. 学会に出席して発表することを約束した以上は,発表する責任がある. とくにオーラルの発表では,キャンセルすると,もち時間のあいだセッションにあなをあけてしまうことになる. その責任を,免疫のない新型とはいえ,たかだか弱毒性のインフルエンザによって放棄してよいわけがないとおもう.
しかし,他人に影響をあたえるどころか,自分自身の参加を会社にみとめさせることすらできないでいる. しかも,AICT 2009 が開催されるのは日本よりずっと感染者がすくないイタリアだ. (イタリアにいくことじたいではなくて,危険がおおきいとかんがえられている国際空港にいくことが問題視されているのだ.) 学会にメイルで連絡したが,(日本人がキャンセルするのはしかたないと) あきらめられている感じだ. なさけない.
2009-5-21 追記:
新型インフルエンザが弱毒性とわかり,通常の季節性インフルエンザに対するのと同様の対策に移行しようとしているというのに出張をキャンセルしなければならなくなったひとつの理由は,こういう事態への対策にはヒステリシスがあるということだろう.
いったん 「禁止」 という方向にふれた対策は,事態がそれほど深刻ではないらしいとわかっても,すぐにはもとにもどらない.
それは私の会社だけでなく WHO でも厚生労働省でもそうだ.
そういう意味では,事前にはもちろんわからなかったが,最悪の時期の学会に投稿してしまったということだろう.
それにしてもキャンセルする理由はないとおもうのだが…