あとがきに 「筆者は [...] 本書の内容のかなりの部分を占める科学史や科学論,技術史については全くの素人であり,[...] 筆者のこれらの分野における知見は,自分の研究者としての問題意識から手の届く文献を興味本位に渉猟した結果にすぎない」 とある. これを読んで 「だまされた」 とおもってしまった. この表現は謙遜ともみられるが,この本を読んでいくうちに感じていた疑問がこれでとけたともいえる.
日本人が 「理論」,「システム」,「ソフトウェア」 によわい,それが日本の工業や工学の弱点になっているというのは,たしかにそうだろう. しかし,これら 3 つをまとめて論じるのがはたしてただしいのだろうかという疑問がある. 「システム」 だけをとっても,古典的な制御理論であつかってきたようなカッチリしたシステムと,いわゆるソフト・システムとではおおきなちがいがある. トヨタの成功はソフト・システム的な方法論で日本の企業が成功してきたことのあかしだろう. 「ソフトウェア」 に関しても,著者はその数学的な性質を重視しているが,おおくのソフトウェアの生産において数学はそれほどやくだってはいない. 数学や論理にもとづくソフトウェア生産がこころみられてはきたが,成功していない.
そうしてみると,この本の論点はおおくがまとはずれだとおもえる. そうなってしまったのは,やはり 「文献を興味本位に渉猟した」 結果であるようにおもえる.
評価: ★★☆☆☆
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