妹尾 堅一郎 の 「「読む」 技術」 には,文章や通常の図表の読み方ももちろん論じられているが,特徴的なのは百科事典と年表の読み方が論じられていることである. 私はちょうど Wikipedia の年代軸検索のプログラムを開発したところなので,とくにここに興味をひかれた.
2002 年に出版されたほんだからか,この本には日本大百科全書とブリタニカ国際大百科事典などとともに世界大百科事典がとりあげられてはいるが,Wikipedia はとりあげられていない. 著者は百科事典のよみかたとして 「探索的読み方」 あるいは 「サーフ読み」 をすすめている. つまり,ひとつの項目を丹念によむというよりは,ハイパー・リンクをたどりながらざっと読んでいくようなよみかたである. 各百科事典の編集方針にも注意をはらっている.
年表に関しては,まず年表というものがいろいろな観点で分析されているが,そのなかに 「歴史観」 という観点がとりあげられている. 「歴史観」 というほどおおげさなものではないが,年代軸検索における検索語あるいは 「テーマ」 はこれにあたるのだとかんがえられる.
年表に関してもうひとつ興味ぶかいのは,この本のコラムで紹介されている 花島 誠人 による 「編集的年表」 という概念である. 従来型の年表を 「叙述的年表」 とよび,それと対比して,あらかじめストーリーがきめられていない,年表を編集していくうちにストーリーが紡ぎだされるものだとしている. 花島は手で編集していくことをかんがえているのだろうが,年代軸検索においてはそれがある程度は自動的におこなわれる,あるいは編集を強力に支援しているということができるだろう. 花島は編集工学研究所とのコラボレーションをおこなっていたようだが,2000 年前後のことだ. Web をみても,最近の研究成果はみつからない.