ここ数十年のあいだに,政治資金にからむさまざまな問題が追及されてきた. あきらかな不正もあるが,おおくは 「疑獄」 といわれるような疑問点のおおい事件だ. いま問題にされている小沢一郎の事実上の秘書である石川議員による虚偽記載問題もそのひとつだ. こうした事件を追及することは,日本の政治に裏支配構造をつくったり,政治不信をまねいたりといった,むしろさまざまなわるい影響をあたえているのではないだろうか?
こうした政治資金問題において,あきらかな悪意をもって,つまり明確に私腹をこやすなどの目的で事件をおこす政治家や秘書はすくない. 個人献金がすくない日本においては,おおくの政治家が企業にもとめるのは政治資金であって,私腹をこやすことではない. いつのまにかグレイゾーンにはいりこんだ結果,それを 「黒」 として追及されることになっている.
戦後の疑獄事件としてもっとも影響がおおきかったのはロッキード事件だろう. 総理大臣だった田中角栄が受託収賄のうたがいで逮捕され,有罪になった. しかし,田中はその後もながらく自民党に影響をもちつづけ,「裏支配」 の構造をつくって日本の政治をねじまがらせた. しかし,この事件にも当時アメリカ大統領補佐官だったキッシンジャーの比較的最近の発言をめぐって,陰謀説がとりざたされている. もしこの説がただしいとしたら,まんまと成功した陰謀をたくらんだ者は,ほくそ笑んだことだろう.
影響のひろさという点ではリクルート事件がおおきかった. これも有罪判決がだされ,リクルート本社をはじめ関連会社におおきなダメージをあたえるとともに,おおくの政治家が謹慎せざるをえなくなった. この事件もいまだに疑問がとけない.
そしていま,小沢一郎と石川知裕の事件がとりしらべられている. 通常国会がひらかれる直前に,十分な証拠がないといわれている石川議員が逮捕された. ロッキード事件やリクルート事件とならべて書いたが,この事件はそれらにくらべればはるかにちいさな事件である. しかし,それでも 「逮捕」 ということになれば,影響はすくなくない. 鳩山首相が小沢に 「戦ってください」 と言ったというので,検察と民主党の全面対決というような表現まであらわれている. 検察のほうが 「勝てば」,やぶれた民主党は混乱して,最悪のばあい政権を維持することができなくなるという可能性もある.
この事件が国民にどのようにうけとられるかはまだわかっていない. すくなくとも新聞のなかには検察に批判的な論調がおおい. しかし,逮捕が正当化され,小沢が民主党幹事長を辞任するようなことになれば,ふたたび政治不信がたかまる可能性がある. また,民主党政権がつづいたとしても,小沢が地位をうしなえば,裏支配の構造がつくられる可能性がある. もしほんとうに逮捕や辞任にあたいすることがおこなわれていたのであればやむをえないが,そうではなくて,ちいさなほころびを拡大しているのだとしたら,マイナスの影響のほうがおおきいだろう. われわれは検察からも距離をおいて冷静に事態をみていく必要があるだろう.