プリペアド・ピアノのための曲としてはジョン・ケージのものが有名だ. プリペアド・ピアノはピアノの内部にクギやコルクやその他のものをいれて,ピアノの音色をかえたものだ. といっても,楽器屋でつくっているわけではなくて,通常はピアノ奏者が自分で準備する. 楽器としての音をつくるのだから,つまりはピアノ奏者が自分で楽器をつくっているということになる.
有名な楽器屋はながい時間をかけて楽器の音を研究している. その研究にもとづいて,個々の楽器を調整する. だから,よい音がするわけだ.
プリペアド・ピアノの音もそれなりによい音だ. よい音をだすために,ピアノ奏者は時間をかけて調整する. 2 日以上かけることはないのだろうが,1 日仕事だ.
しかし,それでも楽器屋がかけている時間にくらべればわずかだ. それでもとのピアノより洗練された音になるとはとてもおもえない. ピアノとはおもえない,かわった音になるから,新鮮ではある. しかし,ピアノの音ほど飽きのこないものではない.
どちらかといえば,洗練されたピアノの音をこわしているということになるだろう. つまりは,あたらしい楽器をつくっているというよりは,ピアノという楽器をこわしていることになるのだろう.
もっとも,あたらしいものをつくるには,まずふるいものをこわすことが必要だから,ケージはそういう意味で重要な仕事をしたことになる. 「4 分 33 秒」 という,ピアノ奏者がなにもひかない曲にしても,偶然性をとりいれた曲にしても,ケージが 1940 年代以降しばらくのあいだにした仕事は 「こわす」 ことに重点があったのだろう.
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