私は ICT の研究者として生きてきたので,当然,英文の論文もそれなりの数,書いてきた. 論文査読の方法については項目をたてて書いたが,論文の書きかたについてはほとんど書いてないことに気がついた. 論文は日本語でも書くのはむずかしいが,まずは英語の論文をどう書いているかについて,書いてみることにしよう.
この文を書いてみようとおもったきっかけは,たまたま家のなかをかたづけていて,2008 年 5 月の人工知能学会誌 (Vol. 23, No. 5) にある論文のかきかたに関する特集をあらためてみたことだ. 研究テーマのえらびかたから情報のあつめかた,論文の構成法など,さまざまなことが書いてある. しかし,そこには書いてないようにみえることがある.
英文を書くのが得意なひとはよいだろうが,おおくの日本人にとって英文を書くのは骨のおれる仕事だ. 上記の特集にも,(当然のことながら) まず日本語で書いて翻訳する方法とはじめから英語で書く方法があげられている. 私自身も,研究会のために日本語の論文を書き,ほぼおなじ内容を英語でも書くときは,まず日本語で書いてから英語に訳す. しかし,英語の論文だけを書くときには,いきなり英語で書く.
英語で書くときは,英語でしゃべるときと同様に,はじめからただしい英語を書こうとするとくるしくなる. あとで自分で読んでわからないようではこまるが,あとで読んでなおせる程度に書ければ,まずはよしとする. だから,Japanese English でもかまわないし,部分的に日本語がまざっていてもかまわない.
最初の段階で重要なのは表現よりも内容だ. ワークショップやシンポジウムの論文にはながさに制限があるから,自分がおもっていることすべては書けない. しかし,書きたいことはともかく適当な表現で書いていく. この段階では構成にもある程度注意をはらうが,これもあまり気にしすぎると書けなくなる. ながすぎたり,構成がまずかったりすれば,あとでなおせばよい. だから,心理的な負荷をあまりおもくしすぎないようにして,書いていく.
そういうわけだから,最初に書いたものはとてもまともな英文とはいえない. ながさはばあいによってちがうが,私のばあいはこの段階ですでにページ制限をこえてしまうことがおおい. それをまず自分で推敲していく. 表現も辞書や Web などをたよりにして,なおしていく. 日本語で書いた部分は適切な訳をみつける. 全体のバランスをかんがえて,みじかすぎる部分は補足し,ながすぎる部分はけずっていく.
ながすぎるときは内容をバッサリけずったほうがよいとおもうが,私のばあい,それはなかなかできない. ついつい,表現をきりつめるなどして,あわせてしまう. そのためにわかりにくくなっているばあいもあるとおもうが,なんとかなっている.
こうして自分でなおせるだけなおしたあとは,やはりネイティブな英語が書けるひとになおしてもらう. これによって,論文はよみやすくなり,たぶん,とおりやすくなる. つまり,会社で論文を書いたら,しかるべき予算をかけて,英文添削 (proofreading) にだすことができる. もしそれだけの予算がかけられなければ,ちかくにいる外国人などにみてもらうとよいだろう. ネイティブでなくても日本人でなければ日本人のクセは見破ってくれるかもしれない.
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