著者はその父がたてたこまばアゴラ劇場の億単位の借金を 23 歳のときに背負って出発したという. そういう著者は芸術と市場経済とのかかわりにもするどい感覚をもっているようだ, 著者は桜美林大学でおしえているが,「学内の演劇の公演は基本的にすべて有料で上演するように指導している」 という. どうすればチケットが売れるかをかんがえるのが重要だからだ.
著者はまた,演劇をはじめとする芸術の公共性を論じている. アメリカでは荒廃した地方都市の再生・再開発に芸術がつかわれて成功した例があるというとこから,日本でも中心街がシャッター通りとなり画一的な 「郊外」 でかこまれた地方都市において芸術がやくわりをはたすのではないかとかんがえている. そこでは,公共的な支援とともに,市民の参加が重要になる.
この本が出版されてから 10 年ちかくになるが,そのあいだに日本各地でビエンナーレ,トリエンナーレなどというもよおしがひらかれるようになった. それらは演劇とのかかわりはうすいだろうが,著者がかんがえていた芸術による地方の振興や市民参加を実現しているといえるだろう. 著者がのこしたするどいメッセージを,このようなこころみのなかに,さらにいかしていけるようにおもえる.
評価: ★★★★★
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