この本にはいたるところに妥当性に疑問がつく議論がある. そのうちのいくつかをここにあげてみよう.
著者は,最近の 10 年くらいでうつ病・躁うつ病が急激にふえているのはここ 20 年くらいでネットが普及しコミュニケーションを変えたからではないかという. しかし,それらの直接的な関係はしめされていない.
著者はまた,インターネットの普及で 「言葉」 がつかわれなくなったと書いているが,それによって顔をつきあわせての会話がへったとしても,文字でチャットする機会はふえているだろう. チャットでは短文しかかかないというのだが,もともと会話では短文しかしゅべっていなかっただろう. 昔は長文を読んだり書いたりしていたというのだが,それは相当にむかしのことだろう.
そこで著者は突然,「精神」 と 「言葉」 について考察するために,哲学や生物学や人工知能 (フレーム問題など) までもちだしてくる. しかし,それがこの議論のどこにやくだつのかわからない.
これらはまだ比較的慎重な最初の部分の議論であり,あとのほうになるとますます疑問があるが,枚挙にいとまがない. とりあげているテーマはよいが,議論や結論は信頼できない.
評価: ★☆☆☆☆
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