6 章はほんとうに 「ピカソは本当に偉いのか」 というテーマを追求している. しかし,それだけにとどまらず,この本では現代美術と画商や美術館との関係をえがき,ピカソの人物像や恋愛・結婚をえがき,「アヴィニョンの娘たち」 に代表されるピカソの絵画を 「今後の絵画はいかにあるべきかという課題に対するピカソ理論の発表のようなもの」 であり学会論文のようなものだと書いている. そしてさらに,そういう絵画の歴史をセザンヌ,エル・グレコからティッツィアーノにまでさかのぼっている. ここには,絵画の歴史をおおう著者のひろい知識と独自のかんがえがある. これは読むに値するものだとおもう.
ピカソが周囲のひとを 「心理的葛藤に巻き込むことで相手の感情を攪乱し,冷静な判断をする心の余裕を奪うことによって,彼の心理的な支配を受け入れざるを得なくしてしまう」 と書いている. 角田美代子のように ?!
一方で,著者はピカソ晩年の自画像を 「間近に迫った死を恐れるものと解釈されても不思議のない深い絶望感をたたえて」 いると書いている. ここは慎重な表現になっているのだが,円熟や悟りのない凄惨な晩年というイメージをえがいている. 常識的なおちついた晩年からははずれていたのだろうが,最後まであたらしいものをもとめつづけたピカソに 「凄惨」 というようなことばはあたらないのではないだろうか.
評価: ★★★★☆
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