3D 印刷に関する 2 件の発表のために,札幌 (北大工学部) でひらかれた日本機械学会年次大会にいってきた. 機械学会の会員になってからはじめての参加・発表だ. 発表のうち 1 件は「方向指定つきの 3D 印刷」,もう 1 件は「手続き的な工業製品設計」についてだ.
2 年ほどまえに機械学会の会員になった. 3D 印刷に関連する学会はほかにもあるが,ひとつえらぶならこの学会が適切ではないかとかんがえたからだ. あとになって,すでに会員になっている ACM (米国のコンピュータ学会) でも私がめざしている方向の 研究発表がおこなわれていることがわかったが,やはり 3D 印刷そのものの研究に関しては機械学会で 発表するのがよいだろうとおもう.
3D 印刷関連の発表は初日 (14 日) にまとめられていた. 私の発表のうち 1 件は 3D 印刷でなく「設計工学一般」という分類のところでおこなったが,それでも 両方が初日になったので,1 日だけ「出張」するだけですんだ. 招待講演などは 2 日めにあるので,ほんとうはきいていきたいが,そうそう会社をやすんでいるわけにもいかない.
「方向指定つきの 3D 印刷」は最近ずっとやっている helical/spiral printing についてのものだ. 3D 設計・印刷にフォーカスした発表をした. 100 人以上はいるおおきな教室での発表であり,興味をひくことができたようにおもうし,そこそこ理解して もらったようにおもう. でた質問は,複数の部品を印刷するときに並列に印刷するか逐次にするかというもの (こたえは「逐次のほうがよいとかんがえている」というもの), (球などの) 印刷開始時に特別なくふうがいるかというようなもの (こたえは,球のときは下端だけはサポートが必要だが,あとはフィラメントの断面積と印刷速度の くふうでできるというもの) などだ. しかし,興味をひいたといっても,もっていった印刷サンプルをみにくるひとはいなかった. 昨年の中国での 2 件の発表のときとくらべると,熱気にはちがいがある.
「手続き的な工業製品設計」 はやはり方向指定つきの 3D 印刷に関するものだが,切削加工のためにつくられた現在の設計手法や CAD が「宣言的」であるのに対して, 付加加工 (additive manufacturing) のための設計手法は手続き的であってもよいのではないかということを主張した. ソフトウェア開発では宣言的 (関数的または論理的) な方法があまり成功していないのに対して, 機械加工では宣言的な方法が成功しているが,それだけでほんとうによいのかという疑問をぶつけてみた. しかし,このセッションは比較的せまい教室でおこなわれ,聴衆もすくないうえに 3D 印刷にそれほど 興味がないひとが多いようだった. 3D 印刷に興味があるひとは,並列におこなわれていた経産省プロジェクトの発表にいってしまったのだろう. 反応はにぶく,質問もすくなかった. 座長からの質問では手続き的設計の利点をきかれたが,十分なこたえができなかったのはまずかった. 今後はすぐこたえられるように整理しておくべきだろう. 機械学会ではそもそも 3D 印刷がしめるわりあいはとてもちいさいが,ほかの分野へはあまり影響をあたえていないのだろう. こういう話題をどのセッションでとりあげたらよいか,むずかしいようだ.
3D 印刷のセッションでの他の発表のなかには,興味をひくものが多かった. 砥粒をまぜたフィラメントで砥石をつくる研究 (S1430101),これは ABS をつかった FDM による 3D 印刷をつかっているが,発生する熱のために「磨耗」がはげしいようだ (熱によわいのはだいじょうぶかと私が質問した). 100℃ にたえられない材料で砥石がつくれるとはおもえない.
義肢装具製造に Objet による印刷をつかう研究 (S1430102) では, 強度をあげるために炭素繊維をはりあわせていて,コストがたかすぎるという. みじかい炭素繊維をまぜこんだ FDM 方式の 3D 印刷で必要な強度がえられればコストがさがるのではないかとかんがえて質問したが, これから検討するという.
金属粉とゲルを混合したものを超音波振動で流動化させて 3D 印刷する研究 (S1430103) はそのセッションのなかでもっとも興味をあつめていた. いまはあまりうまくいっていないようだが,それは市販の機器などをあつめて実験しているからだろう. もうすこし構造をくふうすればうまくいくのではないかとおもえた. 振動をくわえて流動化させるということで砂の液状化をおもいだした. こういうやりかたはほかの物質の 3D 印刷にも応用できるのではないかとおもえる.
私が発表したセッションにふくまれるシリンドリカル型 3D プリンタの開発 (S0440203) は従来の 3D プリンタでスクリューをつくろうとして時間がかかりすぎたのでそれに適した 3D プリンタの開発をめざしたという内容だ. シリンダ形のプリント・ベッドを回転させて,円筒形のものを造形する. このかたちの 3D プリンタは私が方向指定印刷のためにつくりたいとおもっているものにちかい. そのため質問したのだが,なかなかわかってもらえず,えられた情報はあまりない.
このセッションのまえのセッションでトポロジー最適化による軽量 (あなあき) 金属材料の製造に関する発表 (S0440104) があったが,おなじ内容を午後に 3 時間をかけた構造最適化の特別セッションでも とりあげていた. 3D 印刷との関係でトポロジー最適化に興味があるため,このセッションを聴講した. この特別セッションは 8 件の話題提供をふくんでいたが,そのなかで「トポロジー最適化に Global Optimization は必要か?」という最初の発表にもっとも興味をひかれた. 興味をひかれた理由はトポロジー最適化には通常は勾配法がつかわれているが,それでは局所最適解におちいる. そこで大域最適解をもとめるために分枝限定法をつかうことを提案している. 私は会社の仕事でニューラルネット (深層学習) をつかっていて,勾配降下法をつかった逆伝搬学習法で学習 (というよりは最適化) をさせているので,トポロジー最適化と同様だと感じた. しかし,ニューラルネットがとても複雑で大域最適解をもとめようとかんがえるひとはまずいないのに対して, トポロジー最適化ではそれにまだ可能性があるという点に興味を感じた. 計算量がまだニューラルネットほどでないということから,GPU のような特殊なハードウェアもまだあまりつかわれていないようだ. この発表者は逆に私の研究に興味をもってくれて,特別セッションの直後の私の「手続き的設計」の発表もきいてくれた. このセッションでは,Comsol,密度法とレベルセット法,ワンショット法など,気になるキーワードがいろいろきかれた.
ほかに "ひらめき" を具現化するデザインシンキングという特別セッションにも興味があったが,上記のセッションとかさなっていたため,聴講できなかった. 発表が 2 件あったうえフルに聴講して,密な 1 日だった.