9 月 3 日の朝日新聞朝刊 1 面に「集団的自衛権行使は違憲」という山口元最高裁長官のインタビュー記事が掲載された. 憲法解釈の変更と安保法制は日本の将来を左右する重要な問題だから,この記事を読んだひとにも,読んでいないひとにも,すこしかんがえてもらいたいとおもう.
この記事では山口氏が安倍内閣による憲法解釈の変更にもとづく安保法案を違憲とする違憲が紹介されている. 元最高裁長官の違憲はおもくうけとめられるべきだし,朝日新聞はそれをねらったのだとかんがえられる. しかし,この記事およびこのブログの読者に問いたいのは,まず,この記事には重要な論点がちゃんと書いてあるとおもいますか? ということ,それから,もしぬけている論点があるなら,それは山口氏の意図したとおりだとおもいますか? ということだ.
私のかんがえは,第 1 に,ここでの議論は日本がおかれている状況や近隣諸国の状況に関する議論がぬけているということだ. 護憲という観点だけからみれば,安倍内閣の憲法解釈変更とそれにもとづく立法はのぞましいものではないだろう. しかし,安倍首相が主張しているのは,それで日本の安全がまもれるのか? ということだ. 憲法改正がいまできるなら,そして,それが近隣諸国にあたえる影響が負のものでないなら,そうすればよいだろう. しかし,そうでないとかんがえるから,やむなく憲法解釈を変更し,それにもとづいて安保法案をつくっているのではないだろうか. この論点を無視したら,道をあやまる可能性があるのではないだろうか.
第 2 に,日本や周辺諸国の状況を論じなかったのは山口氏の意図でない可能性があるのではないかということだ. これは推測にすぎないが,朝日新聞の記者がインタビューしたときに,この論点にふれなかったのではないかと推測される. ふれなかったことにこたえなかったとしても,それは山口氏の落ち度とはいえないだろう. もしかすると,山口氏がこの論点にすこしはふれた可能性もあるのではないだろうか. それでも,記者にはそれがひびかなかった,あるいは意図的に無視したという可能性も否定できないのではないだろうか. 朝日新聞のことではないが,日経の雑誌記者にインタビューされたひとが,インタビューの際に意図していたのとはまったくちがう記事を書かれたといって憤慨しているのを何度も目にしてきた. 朝日新聞はそんなにひどくないだろうが,やはり,あらかじめ記事の内容を想定して,それにあう部分だけを記事にするという可能性はあるようにおもえる.
いずれにしても,集団的自衛権という国民的合意が必要な問題において重要な論点をぬかして議論することは,合意の形成をさまたげているといえるだろう.