私が開発した螺旋走査線 3D 印刷の有力な応用は照明器具 (のシェード) だとかんがえている. すでにいくつかの照明器具を Yahoo! ショッピングで販売し,ワークショップやコラボレーションをおこなっている. これらのプロジェクトをさらにすすめるためにはシェードの特徴をあきらかにする必要があるとかんがえられるが,それをここにまとめておく.
螺旋走査線 3D 印刷をつかうと,つぎのような特徴をもったシェードをつくることができる. 逆にいえば,これらの特徴をいかすシェードをデザインすることが螺旋走査線 3D 印刷をいかすことになる.
- うすいわりにつよいものがつくれること: 螺旋走査線 3D 印刷では基本的にフィラメントを一巻きするだけで造形物をつくっていく. つぎめなどをなくすことによって従来の 3D 印刷より強度をたかめることができるため,うすいわりにはつよい造形物をつくることができる. ただし,フィラメントの直径がかわらない (印刷のピッチがかわらない) かぎり大形のものも厚みはかわらないので,強度はよわくなる. 目的にもよるが,現在のところ (現在使用している 3D プリンタで可能なフィラメント直径では) 直径 10〜15 cm 程度が限界だとかんがえられる.
- 軽量なものがつくれること: うすいわりにつよいものがつくれるということは,同時に軽いものがつくれるということを意味している. プラスティックなので金属やガラスよりは比重がちいさくて軽量である.
- 短時間で印刷できること: うすくて軽量だということは材料がすくなくてすむということであり,印刷にかかる時間がみじかいことを意味している. 造形物がうすければ冷却に時間がかからないため,高速にフィラメントをつみかさねていくことができる. 使用している 3D プリンタには冷却のために強力なファンをとりつけているから,さらに高速に印刷できるようになっている.
- 低コストであること: 印刷時間がみじかいということは印刷にかかるコストがひくいということを意味している. また,材料がすくないということは,材料費が安価であることも意味している. これらによって,螺旋走査線 3D 印刷のコストは従来の 3D 印刷よりひくい. 螺旋走査線 3D 印刷においては基本的に仕上げ加工が不要であり,サポート材を使用しないためそれを除去することも不要である. これらによって,さらに印刷コストはおさえられる.
- 閉じた中空の形状がつくれること: 3D 印刷によって球のようなとじた形状をつくると,内部にサポート材がのこってしまう. そのため,中空の形状をつくることは通常はできない. しかし,螺旋走査線 3D 印刷においては,かたちに制約はあるが,中空の形状をつくることができる. 閉じたかたちは通常はシェードとして使用できないが,螺旋走査線 3D 印刷による中空の球などは,光を拡散させるため,シェードとして使用することが可能である. (もちろん,中空でない形状をつくってシェードにすることもできる.)
- 材料 (フィラメント) の透明さがいかせること: 3D 印刷用のフィラメントのなかには透明度のたかいものもあるが,従来の 3D 印刷法では基本的にはフィラメントを多重にかさねるため,それをいかすのがむずかしかった. 螺旋走査線 3D 印刷においては 1 重で比較的つよいものがつくれるため,材料の透明さをいかすことができる. 光を通過させるタイプのシェードにおいては,この透明さがいかされる. 現在は透明度がたかい PLA というプラスティックを使用しているが,他の種類の透明プラスティックを使用することもかんがえられる. ポリカーボネートなどでためしたことはあるが,いまのところ表面がざらつきがちであり,PLA ほどの輝きはえられていない.
- こまかい凹凸をえがいたり,こまかく厚みを変化させることができること: 従来の 3D 印刷においては表面にこまかい凹凸をつけることはかならずしも容易でなかった. なぜなら,仕上げのために表面加工が必要だったり,サポート材を除去するための加工が必要だったりするからだ. 螺旋走査線 3D 印刷においては基本的に仕上げ加工が不要であり,サポート材を使用しないためそれを除去することも不要である. そのため,設計時 (デザイン時) に変形 (deformation) という操作によってこまかい表面形状をつくったり,変調 (modulation) という操作によってプラスティックの厚みをこまかくかえたりして,図や文字,模様 (テクスチャ) などを表現することができる.
- さまざまな陰がつくれること: シェードの表面にこまかい形状や模様をえがき,LED などの光をあてることによって,さまざまな陰をつくることができる. より精密なタイプの 3D 印刷した造形物に光をあてて陰をつくることは研究としてもおこなわれていて,犬などのすがたを壁に投影することに成功した例もある. 現在の螺旋走査線 3D 印刷は精度が不足しているため,そこまで陰のかたちを正確に制御することはできないとかんがえられる. しかし,陰のかたちをデザインすることはある程度は可能である.
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