いろいろなデルタ型 3D プリンタをためしているが,今度は BIQU Magician というのをためした. 組み立て不要なのですぐにためすことができる. 螺旋 3D のためにすこしカスタマイズした結果,印刷速度は Kossel よりややおちるが,精度よく印刷できる. ただし,なぜか PC と USB でうまくつながらないので,いまのところ SD カードからだけ印刷できる.
BIQU Magician は約 16000 円. 小型で直径 10 cm までしかつくれない (ということは買うときには意識していなかった) が,完成品がとどく. かなりしっかり梱包しているので,輸送中にこわれることはすくないのだろう. 何も指定しなかったのに日本語のマニュアルがついてきた.
ちいさいリールのフィラメントが付属しているが,それをそのまま 1 kg のリールにとりかえることはできない. しかし,透明な 1 kg のリールがつかえるようにする必要がある. リールはプリンタ上の中央に水平に装着するようになっているが,ずらしてのせるようにすると 1 kg のリールでも一応つかえる (右下の写真). この写真ではわからないが,プリンタ上部の中央に突起があるので,フィラメントが落ちることは基本的にないとかんがえられる. この方法の問題点はフィラメントにやや無理なちからがかかるので PLA だと折れやすいということだ. ほんとうはリールが垂直に装着できるようにしたほうがよいとおもわれる.
これまでつかってきた G コードをそのままつかおうとすると,具合がわるい点が 2 つあることがわかった. ひとつは印刷開始時にヘッドが原点 (ホームポジション) にぶつかって,さらに上に移動しようとすることだ. 印刷はただしく継続できるものの,ガリガリいうのでぐあいがわるい. このままつかいつづけると故障の原因になるだろう. こんなことがおこるのは,螺旋 3D 印刷のライブラリ draw3dp において Kossel のヘッドが高速に原点に移動するように Z = 300 (mm) まで高速移動させているからだ. 原点にもどすコマンド G28 では移動速度を指定できないため,このようにしている. Magician ではライブラリのパラメタを変更してこれを 150 mm にすることで,ただしく原点にもどるようになった.
もうひとつの不具合は印刷開始時にヘッドがベッドにぶつかることだ. これもガリガリ音をたてたあとヘッドの位置がくるうので,印刷が継続できなくなる. 原因をしらべると,ライブラリ draw3dp をつかって生成した G コードで印刷開始時にだけ Z 座標が負の点に移動するように指定されているためであることがわかった. BIQU のサイトでしらべてみると,ファームウェアは Marlin をつかっているらしい. Repetier のファームウェアでは Z 座標として負の値を指定すると 0 と解釈されるが,この BIQU のファームウェアではほんとうに座標が負の位置に移動しようとする. これはライブラリをかきかえて負の値が指定されないようにすることで解決した.
さらに,螺旋 3D 印刷に対応するために Magician に 2 つの改造をした (下の写真). ひとつはファンをつけたことだ. Kossel では本体から電源をとって外部のファンをまわしていたが,Magician の内部からは電源がとりにくいので,24 V のファンを電源アダプタをつけて使用することにした. もうひとつは,このファンによってヘッドがひえないように,Kossel と同様にシリコンゴムをぬったことだ. 最初は断熱材なしでつかってみたが,予想どおりヘッドがどんどんひえて印刷できなくなる. 断熱することで設定温度がたもたれるようになった. ヘッドのまわりをおおっているプラスティックは断熱材をつける際にすこしきりとった. ヘッドを上下させながら印刷する (vibrato をかける) 際にじゃまになるとかんがえられるからだ. きりとりかたは,まだたりないかもしれない.
いくつかためし印刷をしてみた. ためすために Windows PC につなぎ,まず Repetier Host をつなごうとしたが,つながらない. USB のポートは認識されているのだが,コマンドがおくれないようだ. そこで付属の SD カードにはいっている Cura をインストールしてつないでみたが,やはり Magician はいっさいうごかない. しかたがないので,とりあえずは Magician に G コードがはいった SD カードをいれてテストしてみた.
Magician でためしに地球儀を印刷してみると,Kossel 用の G コードでは赤道付近はまったく追いつかない. フィラメントのおくり速度 (エクストルーダ) にはまだ余裕があるが,ファームウェアの処理が追いつかない. 3 割以上,印刷速度をおとすか,または G コードを構成する線分 (G1 での移動距離) をながくする必要がある.
一方,地球儀の極付近では印刷速度がおそくなる. これは,Marlin に問題があるというよりは,Repetier では極付近で指定より印刷速度がはやくなっていたためだ. 極付近ではなぜか Repetier をつかうと時計のすすみがはやくなって印刷速度が増加しているのだが,Marlin ではそうならない. これは極付近での印刷をはやめることで解決した. つまり,Repetier むきの G コードとくらべると印刷速度を赤道ではおそくし極でははやくしたので,Marlin むきの G コードでは赤道と極の速度比がずっとちいさくなる. このように G コードを Magician むきに最適化すると,精度は旧型 AnyCubic Kossel と同等かよりよく印刷できるようになった. Linear+ ではまだこの精度を達成できていない.
また,ためしにちいさな円を適当な速度でえがかせてみると,最初はヘッドがそれに追随するのに,何周かすると追随しなくなる. ファームウェアの処理が追いつかなくなるのだ. 印刷開始後しばらくすると処理速度が低下しているようだ. これは Marlin 固有の問題なのではないだろうか?