昨年 11 月に新国立劇場で演奏された藤倉大のオペラ「アルマゲドンの夢」を 1 ヶ月間無料でストリーミングするというので,きいてみた. H. G. ウェルズの SF がもとになっているということで,英語でうたっているが,ほとんどききとれない. 字幕は英語と日本語から選択できるので,きりかえながらきいてみたが,それでも難解なのでいろいろ評論を読んだり解説を視聴したが,まだ十分にはわからない.
難解な理由はまず原作であるウェルズの小説がよく知られたものではなく,私はまったく読んだことがないものだったことだ. さらに,このオペラは原作に忠実ではなく,かなり大胆に改変されていることもある. しかも,その改変のしかたは,複数の登場人物をまとめてひとりにするようなやりかただ. 夢だからそもそも人物のアイデンティティはぼんやりしているが,それがさらに増幅されている.
夢をえがいているということもあり,場面は自由に転換する. どういう場面なのかを把握するのも,かならずしも容易ではない. 海岸でくつろぐような場面もあるが,主人公の男性は常にワイシャツ,ネクタイ,そしてスーツを着るか持つかという服装で登場する.
字幕は歌詞どおりの英語とそれを意訳した日本語だが,きりかえてくらべてみると,その内容はかなりちがう. 日本語訳は作曲者が了解したものなのだろうが,英語の歌詞からかなり改変され,かなり情報がくわえられている. それが妥当なものなのかどうか,私には判断できない. そして,それらをくらべてみても,やはり十分には理解できない.
藤倉の音楽は多様に変化するが,全体的な印象としては,透明度がたかくて声をじゃましない. 歌詞がききとれないのは音楽のためでも英語だからでもないだろう. しかし,わからないなかでも感動的なうたがある. とくに,最後にボーイソプラノがうたう「アルマゲドン」のうたは心にしみた. 最後にこどもが登場する点ではベルクのヴォツェクをおもいだすが,ヴォツェクではなにもわからないこどもが発する声でしめくくられるのに対して,このうたはもっと意味深い.
2022-2-6 追記:
このオペラが新国立劇場で初演されたのは 2018 年.
新型コロナウィルスの感染がすすむなかで演奏できるかどうかあやぶまれたが,演出家が現在の状況のなかで,ぜひ今やるべきだというつよい意志をもっていたという.
その時点では Brexit が話題になっていたのだが,その後,ミャンマーの軍事圧政,中台・米中の対立・軍事衝突のリスク,ロシアとウクライナの軍事衝突のリスクなど,このオペラのテーマになっている専制政治との対決・戦争に関係する問題が多発していることをかんがえると,ますますこの演奏の意義がふかまっているようにおもう.
2022-3-6 追記:
ロシアはついにウクライナを侵略した.
プーチンは核戦争の可能性にまで言及している.
まさにアルマゲドンの悪夢をみるような状況だ.
結末がどうなるかはまだわからないが,藤倉大は預言者なのではないか?!