1. 概要
フロー単位の制御をおこなう IntServ (Integrated Services, 統合サービス) はスケールせず,大規模なネットワークにおいて使用することができないという問題点がある. それに対してフローをクラスにまとめて制御する DiffServ (Differentiated Services, 差別化サービス) は精密な制御ができないため,over-provision されたネットワークにおいてはほぼうまくはたらくものの,トラフィック量が限界にちかづくにつれて QoS が保証されないことがおおくなるという問題点がある. そこで,LAN やアクセス網においては IntServ を使用し,コア網においては DiffServ を使用するという方法 [Det 99] [Mam 99] [Ber 00a] [Bal 00] [Har 00] [Lee 03] [Cha 00] [Wel 03] [Bai 02] がくふうされた. これらの方法のおおくにおいては RSVP が使用され,そのメッセージがコア網も通過するが,コア網においては RSVP による資源予約はおこなわれない. RSVP はもともとこのように端点間のパスのなかの一部だけで動作することができるように設計されている.
この方法は,コア網のおおくは over-provision されていて DiffServ がうまくはたらくが,アクセス網においてはしばしば輻湊が発生するという現状にあっているとかんがえられる. NGN においてもアクセス網においてより輻湊が発生しやすいという状況はかわらないであろうから,この方法は NGN においても有効であろう. IntServ と DiffServ とのくみあわせに関しては前記のように多数の方法がかんがえられているが,ここでは,まずフロー単位の要求をクラス単位などにたばねる方法と,NGN における実現方式として現在 IETF や 3GPP 等において有力となっているとかんがえられる RSVP を使用した集約 (aggregation) の方法と,QoS-NSLP およびそのうえの RMD とについてのべる.
2. フロー単位の要求のたばねかた
IntServ と DiffServ とのくみあわせにおいては,RSVP やそれにかわるプロトコルによってフロー単位で要求された QoS 条件や資源要求をコア網においてどうやって集約して,コア網におけるクラス単位のシグナリングやポリシー設定にむすびつける方法の開発が課題となる.
個別のプロトコルにおいてこのような集約をおこなう方法については次節以下でのべるが,その基本はつぎのとおりである. 単純化するため,図 1 のように 2 つのアクセス網と 1 つのコア網とからなるネットワークをかんがえる. アクセス網 A を経由してコア網 C にはいりアクセス網 B にぬけるフローのための QoS 設定要求 (資源予約要求) において,資源予約のための基本シーケンスは,たばねられた資源がコア網 C においてあらかじめ確保されているばあい (図 2 (a)) と,上記の要求時にコア網 C の資源が確保されるばあい (図 2 (b)) との 2 とおりがある.
図 1 IntServ と DiffServ とのくみあわせによる保証対象のネットワーク
(a) たばねられた資源が確保されているばあい (b) 最初の要求時に人が確保されるばあい
図 2 フローの集約に関する 2 つのばあい
すなわち,図 2 (a) においては該当の資源がクラス単位の要求 1. によってあらかじめ確保されているので,アクセス網 A からの要求 5. に対してコア網においてはあらたな操作は必要ない. したがって,ルータ I は要求 5. を (コア網をバイパスして,すなわち処理せずに) ルータ E におくり,ルータ E はそれをアクセス網 B におくる. アクセス網からはそれに対する応答 8. がルータ E にかえるので,それをコア網をバイパスしてルータ I におくり (9.),ルータ I は応答 10. をアクセス網におくる.
一方,図 2 (b) においては該当の資源がまだ確保されていないので,アクセス網 A からの要求 1. がコア網に到着した際に要求 3., 4. によって資源を確保するが,ルータ E はフロー単位の要求 2. とクラス単位の要求 4. が両方到着してからフロー単位の要求 5. をアクセス網 B に転送する (5.). ルータ I はクラス単位の応答 7. とフロー単位の応答 9. が両方到着してから応答 10. を アクセス網におくる. このシーケンスによってたばねられた資源が確保されたので,つぎの要求に対しては (a) の 5. ~ 10. のようにすぐに応答がかえされる.
これらのシグナリングには RSVP や QoS-NSLP を使用することができる. コア網において MPLS を使用しているときは,クラス単位のシグナリングのために LDP [And 01] や RSVP-TE [Awd 01] を使用することができる. これらのシーケンスは基本的には送信者が要求を送信するばあいのものであり (要求時に資源を予約する),また,いずれも単純化されている. 実際には使用するプロトコルによっては 3 ウェイ・ハンドシェイク (three-way handshaking) が必要だったり,フロー単位の要求がコア網の出口 (ルータ E) まで転送されてからコア網内の資源確保手続きが開始されたりというようなより複雑なシーケンスが必要になる.
3. RSVP を使用した集約
RFC 3175 [Bak 01] においては,RSVP による資源要求を DiffServ のクラス単位にたばねる方法が標準化されている. その基本的なシーケンスは,受信者が開始する点をのぞけば図 2 にちかい. しかし,この方法においてはひとつの DiffServ クラスに関する要求がひとつにたばねられてしまう. Le Faucheur ら [Fau 06b] はひとつのクラスのなかに複数の資源要求をみとめる拡張を記述している. この拡張のために,仮想の行先ポート (virtual destination port) という概念が導入されている. また,Le Faucheur ら [Fau 06a] は RFC 3175 の方法を MPLS TE トンネルまたは MPLS DS-TE (DiffServ-aware MPLS TE) トンネル上で実現する方法を記述している.
4. QoS-NSLP と RMD
この節においては,NGN における実現方式として現在 IETF や 3GPP 等において有力となっているとかんがえられる QoS-NSLP およびそのうえの RMD についてのべる. IETF の NSIS (Next Step in Signaling) ワーキンググループは QoS をはじめとするさまざまな目的につかえるあたらしいシグナリング・プロトコルをさだめている. その要求は RFC 3726 [Bru 04] に記述され,フレームワークが RFC 4080 [Han 05] に記述されている. NSIS WG (IETF Next Step In Signaling Working Group) においてはつぎのようにトランスポート層とシグナリング層の 2 つにわけてプロトコルの標準化をめざしている.
- NTLP (NSIS Transport Layer Protocol)
- トランスポート層のプロトコルが NTLP であり,それを既存のトランスポート・プロトコル上に実現するためのメッセージ層として GIST (General Internet Signaling Trans-port) が定義されている [Sch 06].
- NSLP (NSIS Signaling Layer Protocol) [Ash 06a]
- シグナリング層のプロトコルが NSLP [Han 05] である. NSLP は汎用性があるが,そのうち QoS のためのシグナリングに関する部分が QoS-NSLP [Man 06] である. QoS-NSLP は多様な QoS 保証に対応するため,QoS 仕様記述法の部分を QSPEC Template [Ash 06a] として分離している. RSVP は受信者がシグナリングをはじめるようにきめられていたが,NSLP においては特定の QoS モデルに限定されずに,シグナリング方式に関しても QoS 仕様に関しても,さまざまなモデルが実現できるように設計されている.
Báder ら [Bad 05] は,RSVP のさまざまな問題点を解決するため,RSVP のかわりに QoS-NSLP を使用するようにして,そのための QoS 仕様記述法として RMD-QOSM [Bad 06] を提案している. RMD-QOSM をのせた QoS-NSLP は RSVP のようにフロー・パスにそって転送される. 図 2 (b) を使用してそのメッセージングを説明する. QoS-NSLP の RESERVE メッセージは端点またはゲートウェイによって生成されるが,それがコア網のエッジ (ルータ I) に達すると (図 2 (b) の 1.),その RESERVE メッセージは DiffServ 網内をそのまま通過する (2.) が,RMD のための QoS 仕様 (RMD-QSPEC) が形成されて,それをふくむメッセージが DiffServ 網内をながれる (3., 4.). DiffServ 網外から RESPONSE メッセージ 8. がとどくと,それは網内をつたわって (9.),RESERVE メッセージの始点までとどく. このシグナリングにおいてはクラス単位の応答 6., 7. が存在しない点が図 2 (b) とはことなっている.
なお,QoS-NSLP を使用した複数のドメインにまたがる QoS のあつかいに関してはインターネット・ドラフト [Zha 06] が提出されている.
参考文献
- [And 01] Andersson, L., Doolan, P., Feldman, N., Fredette, A., and Thomas, B., “LDP Specification”, RFC 3036, IETF, January 2001.
- [Ash 06a] Ash, J., Bader, A., and Kappler, C., “QoS NSLP QSPEC Template”, draft-ietf-nsis-qspec-10, Internet Draft, IETF, June 2006.
- [Awd 01] Awduche, D., Berger, L., Gan, D., Li, T., Srinivasan, V., and Swallow, G., “RSVP-TE: Exten-sions to RSVP for LSP Tunnels”, RFC 3209, IETF, December 2001.
- [Bad 05] Báder, A., Karagiannis, G., Westberg, L., Kappler, C., Phelan, T., Tschofenig, H., and Heijenk, G., “QoS Signaling Across Heterogeneous Wired/Wireless Networks: Resource Management in DiffServ Using the NSIS Protocol Suite”, 2nd Int'l Conference on Quality of Service in Heterogeneous Wired/Wireless Networks (QShine'05), pp. 51–51, Aug. 2005.
- [Bad 06] Báder, A., Westberg, L, Karagiannis, G., Kappler, C., and Phelan, T., “RMD-QOSM - The Resource Management in DiffServ QOS Model”, draft-ietf-nsis-rmd-07, Internet Draft, IETF, June 2006.
- [Bai 02] Bai, H., Atiquzzaman, M., and Ivancic, W., “Running Integrated Services over Differentiated Service Networks: Quantitative Performance Measurements”, Quality of Service over Next-Generation Internet, Boston, MA, July-August 2002.
- [Bak 01] Baker, F., Iturralde, C., Le Faucheur, F., and Davie, B., “Aggregation of RSVP for IPv4 and IPv6 Reservations”, RFC 3175, IETF, September 2001.
- [Bal 00] Balmer, R., Baumgarter, F., Braun, T., and Gunter, M., “A Concept for RSVP over DiffServ”, 9th Int'l Conference on Computer Communications and Networks (ICCCN 2000), pp. 412–417, Oct. 2000.
- [Ber 00a] Bernet, Y., Ford, P., Yavatkar, R., Baker, F., Zhang, L., Speer, M., Braden, R., Davie, B., Wroclawski, J., and Felstaine, E., “A Framework for Integrated Services Operation over DiffServ Networks”, RFC 2998, IETF, November 2000.
- [Bru 04] Brunner, M., Ed., “Requirements for Signaling Protocols”, RFC 3726, IETF, April 2004.
- [Cha 00] Chahed, T., Hebuterne, G., and Fayet, C., “On Mapping of QoS between Integrated Services and Differentiated Services”, 8th Int'l Workshop on Quality of Service (IWQoS 2000), pp. 173–175, June 2000.
- [Det 99] Detti, A., Listanti, M., and Veltri, L., “Supporting RSVP in a Differentiated Service Domain: an Architectural FrameWork and A Scalability Analysis”, IEEE Int'l Conference on Communications (ICC'99), Vol. 1, pp. 204–210, June 1999.
- [Fau 06a] Le Faucheur, F., Ed., “Aggregation of RSVP Reservations over MPLS TE/DS-TE Tunnels”, draft-ietf-tsvwg-rsvp-dste-03, Internet Draft, IETF, June 2006.
- [Fau 06b] Le Faucheur, F., Davie, B., Bose, P., Christou, C., and Hamilton, B. A., “Generic Aggregate RSVP Reservations”, draft-ietf-tsvwg-rsvp-ipsec-01, Internet Draft, IETF, June 2006.
- [Han 05] Hancock, R., Karagiannis, G., Loughney, and Van den Bosch, J., S., “Next Steps in Signaling (NSIS): Framework”, RFC 4080, IETF, June 2005.
- [Har 00] Harju, J. and Kivimaki, P., “Co-operation and Comparison of DiffServ and IntServ: Performance Measurements”, 25th Annual IEEE Conference on Local Computer Networks (LCN 2000), pp. 177–186, November 2000.
- [Lee 03] Eunkyu Lee, Sang-Ick Byun, and Myungchul Kim, “A Translator Between Integrated Service/RSVP and Differentiated Service for End-to-end QoS”, 10th Int'l Conference on Tele-communications (ICT 2003), Vol. 2, pp. 1394–1401, March 2003.
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- [Man 06] Manner, J., ed., Karagiannis, G. and McDonald, A., “NSLP for Quality-of-Service Signaling”, draft-ietf-nsis-qos-nslp-11, Internet Draft, IETF, June 2006.
- [Sch 06] Schulzrinne, H. and Hancock, R., “GIST: General Internet Signaling Transport”, draft-ietf-nsis-ntlp-09, Internet Draft, IETF, February 2006.
- [Wel 03] Welzl, M. and Mühlhäuser, M., “Scalability and Quality of Service: a Trade-off?”, IEEE Communications Magazine, Vol. 41, No. 6, pp. 32–36, June 2003.
- [Zha 06] Zhang, J., Monteiro, E., Mendes, P., Karagiannis, G., and Andres-Colas, J., “InterDomain-QOSM: The NSIS QOS Model for Inter-domain Signaling to Enable End-to-End QoS Provisioning Over Heterogeneous Network Domains”, draft-zhang-nsis-interdomain-qosm-02, Internet Draft, June 2006.