金田 泰, 東京大学大学院工学系研究科情報工学専門課程 修士論文, 1981.
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研究テーマ紹介: プログラミング言語学
要旨
プログラミング言語を,機械のための言語というより,人間がかき,人間がよむための言語 [そして人間と人間とのコミュニケーションのための言語] と認識すれば,その研究はむしろ人文科学に属するものであることがわかる. そして,そこからプログラミング言語を言語学的に研究する可能性がひらけてくる. そして,おなじ認識からプログラミング言語と自然言語を比較研究することの意義がみいだされる.
これまでプログラミング言語の言語学的研究は,興味はもたれていても実際におこなわれたことはないようである. したがって,まずその研究の基礎をきずくことが必要だとおもわれた. そこで,プログラミング言語の言語学的な見方をしめし,プログラミング言語のどの部分にどのような研究方法が適用可能であるかをしらべ,そして研究を方向づけることをこころみた.
本論文でのべる 「言語学的な見方」 のなかでもとくに重要なのは,まずプログラミング言語を慣習 (= 「非成文化規則」) をもふくめた体系としてとらえること,つぎにプログラム単位名の意味をその 「抽象」 との関係としてみることである. またプログラミング言語に言語学的方法をあてはめるための検討のなかでは,自然言語との構造上の類似点などを指摘した. そして,「形態論」 から 「意味論」 におよぶ研究分野をいちおう方向づけした. そのなかで重要な (意味論の) 部門のひとつは,プログラミング言語に存在するあいまい性の研究である.
言語学的研究はおもにすでに存在するプログラムを対象とするが,本論文ではそのような系統的研究をおこなうところまでは達していない. しかし,ここから研究のてがかりをえることはできるのではないかとおもう.
目次
- はじめに
- プログラミング言語にかかわる研究の分野
- プログラミング言語と自然言語の対照研究の意義
- プログラミング言語とはどういうものか
- プログラミング言語の 3 つの表現
- プログラミング言語の規則
- 成文化規則と非成文化規則 1
- 「非成文化規則」 は存在するか
- 成文化規則と非成文化規則 2
- 成文化規則の細分
- 伝達機能による規則の分類
- プログラミング言語の規則と自然言語の規則
- 規則の柔軟性
- 規則の複雑さについて
- 規則にかかわる言語学的研究の課題
- プログラミング言語の自立性
- 自立性を検討する理由
- 非自立性を支持する根拠
- 自立性を支持する根拠
- 工学的検討
- 「意味」のとらえかた
- 基本的三角形
- 「意味」の定義
- 言語の特性
- 「自然言語の特性」 A. 伝達機能,B. 記号の恣意性,C. 体系性,D. 記号とメッセージの線条性 (linearity),E. 単位の離散性 (discreteness),F. 2 重分節 (double articulation)
- プログラミング言語は言語の特性をそなえているか A. 伝達機能,B. 記号の恣意性,C. 体系性,D. 記号とメッセージの線条性,E. 単位の離散性,F. 2 重分節
- プログラミング言語のほかの特徴
- あいまい性について
- 閉鎖性と進化性
- プログラミング言語ははなされない
- 命名の頻度と語の有効範囲 (scope)
- プログラムは「つかわれ」,かきかえられる
- プログラミング言語の非言語的部分
- 式の性質 A. 非 2 重分節性,B. 非線条性
- 非言語的部分の存在意義
- プログラミング言語の変化 (variety and change)
- プログラミング言語学とその研究分野
- 個別的研究
- 個別的研究の分野
- 文法論
- 意味論
- 比較対照研究
- 個別的研究
- 記号の分類とその構造
- 識別子の分節
- 変数名の構造
- よびだしの構造
- 規定書上の構造
- 関数よびだしの構造
- 手続きよびだしの構造
- 手続きよびだしの構造に関する工学的考察
- 識別子の縮約
- 識別子のながさの制約と対策
- 縮約規則
- 一般的意味,多義性,同音性
- 多義性,同形性の起因
- あいまい性の解決の必要性
- 多義性,同形性の解決
- あいまい性の存在意義
追記 (2007)
プログラミング言語を (人間の) 言語学的に (すなわち人文科学的に) 解析することをめざした論文である. (プログラミング言語に関しては,言語学的にみて当時と現在とでそれほどおお きな変化はないとかんがえられる. しかし,当時まだひろくつかわれていなかっ たデータを記述するための言語とくに XML が,現在ではひろくつかわれるように なっている. XML を言語学的に解析することでえられるものがあるだろうとおもう.)