1980 年代はバブル時代といわれていますが,私の研究生活にとってもこの時代は,いまからみるといささか苦いおもいがする時代です. 企業研究者としては当然なはずの会社の利益への貢献について,あまりかんがえていませんでした.
1980 年代に私は会社に就職し,最初はあたえられた Fortran コンパイラに関する仕事 (ベクトル / 並列計算機のためのプログラミング言語処理 と スカラー計算機のためのプログラミング言語処理の一部) をこなしていました. しかし,その後の 2 つのテーマはいずれも私がみずから提案したものです. 最初はスパコン用 Fortran コンパイラ開発でえた知識をいかして,論理型言語や記号のベクトル処理を研究しました. それから,自己組織的な計算をめざして化学的計算のモデル CCM を研究しました. しかし,(これらの研究を支援してくれたひとにはもうしわけないのですが) これらが製品化されて会社に利益をもたらすであろうという見通しをもってはいませんでした. また,周囲にも,開発した技術が会社の宣伝になれば,かならずしも製品がうれなくてもよいというかんがえがあったとおもいます.
こういう,研究テーマ選択における,あまいかんがえかたは,その後しだいにあらためていきましたが,まだ十分ではなかったようにおもいます. 1990 年代に私は軸づけ検索を研究しましたが,これはもともと百科事典のために開発したものであり,その線にそって製品化されました. しかし,これも利益をうみませんでした. つぎに手がけた研究はポリシーにもとづくネットワーキングと QoS 保証でした. これは私が提案したものではありません. 製品化されましたが,予想どおりにはいかず,やはり利益をうみませんでした.
結局,これまで私がてがけた研究で会社に利益をもたらしたものはほとんどありません. その出発点がバブル時代だったとおもっています. しかし,こうやって,しだいに (おそすぎたかもしれませんが) テーマのえらびかたに関しても訓練されてきたようにおもいます. もう会社で仕事ができる年月はあまりながくないのですが,社会と会社に貢献できる研究ができる可能性はたかまっているようにおもいます.