インスタント・メッセージング (IM) においては相手の “プレゼンス” を知ることができます. このばあいの “プレゼンス” とは,相手がオンラインかどうかという 1 ビットのデジタルな情報です. オンラインであればメッセージをおくって,すぐに相手のコンピュータにメッセージを表示することができます. しかし,もともとプレゼンスということばは,人間やものの存在感とか臨場感とかいうアナログな情報をあらわすものです. 仮想現実 (virtual reality) においては,もっと本来の意味にちかい意味でこのことばがつかわれています. この分野の専門雑誌として MIT Press の 「Presence」 があって,興味ぶかい論文がいろいろ掲載されています. IM における “プレゼンス” は,それらとはあまりにおおきくちがうものです.
IM 以外にも,とくに研究レベルではさまざまな “プレゼンス” をつたえるしかけが開発されています. そのなかにはアナログ情報をつたえるものもありますが,IM と同様にデジタルな,あるいは言語という離散情報に変換 (解釈) された “プレゼンス” がおおいようです. たとえば,ひとりぐらしの高齢者の活動を知るために,つかわれたことをしらせる象印のポット (i ポット),これはやはり 1 ビットのデジタル情報をつたえます. 人感センサーなどでひとのうごきをとらえて,それをしらせるしかけも同様です. 周囲のひとの数をたとえば 「多数」,「少数」 というように言語化してつたえるシステムも試作されています. このばあいは情報量はもうすこしふえますが,デジタル化された情報をつたえることにかわりはなく,かぎられた情報しかつたえられません. しかも,その情報は記号化されている,つまり,あらかじめきめられた選択肢のなかのひとつがつたえられるだけです.
本来のプレゼンスはアナログ情報であり,このようにコード化されてはいません. したがって,あらかじめコード化されていないことからくるあいまいさはある一方で,限定されない,さまざまな情報がつたえられる可能性があります. このように,はなれた場所につたえられたプレゼンスのことをテレプレゼンスといいます. 私が開発してきた遠隔会話のためのメディア voiscape においては,このようにプレゼンスをあらく解釈 (デジタル化) してしまうことなく,できるだけもとのままつたえることを意図しています. そこでは,ひととひととのあいだの (仮想的な) 距離や方向がアナログ情報としてつたえられ,それにしたがって音量も連続的に変化します.
“プレゼンス” ということばをつかうときに IM におけるような意味だけをかんがえがちですが,このような本来の意味をかんがえることが必要なのではないでしょうか?
追記:
「画像によって表現される “プレゼンス”」 に関係のふかい話を書きました.
あわせて参照してください.
2008-5-4 追記:
「デジタルとアナログの融合」 も参照してください.