「“プレゼンス” におけるデジタルとアナログ」 では,インスタント・メッセージング (IM) などにおける “プレゼンス” とはちがって,本来のプレゼンスはアナログ情報だと書きました. プレゼンスということばにはいろいろな意味があって,IM の “プレゼンス” もそのうちのひとつだということができますが,東工大の比嘉研でつかわれていた e-office というシステムには,IM の “プレゼンス” にちかいが記号化されていないアナログ情報がつかわれている例をみることができます.
もう 2 年以上まえのことになりますが,私はテレワークの専門家である東工大の 比嘉 邦彦 教授を訪問したことがあります. このときに話をきき,またみせてもらったのが比嘉研究室で試作されキヤノンで開発された e-office [Sak 02] というシステムの使用例でした. 比嘉研究室では在宅時もふくめてこのシステムを比嘉教授室,研究室メンバーの居室,事務室等をむすんで 2 年以上つかってきたということでした. e-office では個人ごとにちいさな動画とテキストメッセージを表示しますが,動画としてカメラでとった相手の顔をうつすのではなくて,相手がそこにいれば常時,たとえば頭のてっぺんとか手先とか,からだの一部だけがうつるようにするということでした. これによってプライバシー上の問題をおこすことなく,しかも記号化された不確かな “プレゼンス” ではなくて,なまのプレゼンスを表示することができるということでしょう. 通信帯域のつかいかたとしてはあまり効率的とはいえませんが,LAN ならばまったく問題はありませんし,ブロードバンド時代には WAN でも十分に可能なつかいかたです.
「“プレゼンス” におけるデジタルとアナログ」 を書いたときにこの話をおもいだせばよかったのですが,そこに書かなかったので,あらためて書いておくことにしました.
2008-5-4 追記:
「デジタルとアナログの融合」 も参照してください.
参考文献
[Sak 02] 榊原 憲, 加藤 政美, 田處 善久, 宮崎 貴識, “メディア空間による分散勤務者のコミュニケーション支援システム「e-office」”, 情報処理学会論文誌, Vol. 43 No. 8, pp. 2821-2831, 2002 年 8 月.