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ヨーロッパ型にちかづけるべき日本の福祉政策

もともと日本の福祉はヨーロッパを規範としていました. しかし,1990 年代の不況から脱却するため,小泉政権下でいわばやむなく,よりアメリカにちかい政策がとられてきました. その甲斐あって景気はほぼ回復したわけですが,いまその 「大手術」 の後遺症になやまされているわけです. これから本格的な制度改革をめざさなければならないわけですが,そこでアメリカ型をめざすのか,ヨーロッパ型をめざすのかが問題だといわれてきました. しかし,最近の状況をみると,めざすべきはヨーロッパ型に独自のいろづけをした政策だということはあきらかなようにおもわれます.

もはや高度成長期のように福祉に 1 人あたりおおきな予算をさくことはできなくなっています. そのため,健康保険,年金,生活保護など,どれをとっても削減を余儀なくされています.

健康保険をとってみれば,アメリカにはもともとない制度です. ヒラリー・クリントンは夫の大統領時代に健康保険制度を確立するべく何度も挑戦してきましたが,いまだに成功していません. それをかんがえれば,健康保険を廃止するというのもひとつの選択肢だということがわかります. しかし,これは日本人にはうけいれがたい選択肢であるようにおもえます.

ほかの制度をとってみても,日本にはつよく個人の自立をうながす伝統がないので,自立を第 1 とするアメリカのかんがえかたはとれないとおもえます. 現在,生活保護に関しては自立をうながすことによって予算を削減するという方法がとられていますが,餓死者をだしたり,病気になったり進学をあきらめたり,さまざまな問題がおこっています. 「生活保護うちきりからくる餓死・飢餓 ― 福祉の本質をわすれた地方自治体」 においてはこの現状を 「福祉の本質をわすれている」 と表現しましたが,そもそも自立をうながすというのがどういうことなのかが地方自治体の職員などに理解されていないのかもしれないとおもいます. つまり,自立していない人間に他人の自立をうながすことなどできないということです.

ただしく自立をうながすようにすることももちろん必要でしょうが,そもそもそれを急速にすすめることが無理なのであって,ヨーロッパのように,よりてあつい保護をめざしていくべきだということになるのではないでしょうか? そのためには予算の確保というむずかしい問題を解決しなければなりませんが,うまく増税してまかなうほかに方法はないでしょう.

2008-5-17 追記:
ここでは今後とるべき福祉政策を 「ヨーロッパ型」 とよびましたが,それは 1980 年代以前にヨーロッパでとられていた政策ということではありません. 佐和 隆光 の 「市場主義の終焉」 (岩波新書) によれば,「80 年代に市場主義改革という 「必要な経過点」 を通りすぎた欧州各国が,その挙げ句にたどり着いたのが 「第 3 の道」 であった [中略] 「第 3 の道」 とは,市場主義にも反市場主義にもくみしない,いってみれば,両者を止揚 (アウフヘーベン) する革新的な体制なのである」 ということです. この本の主張もそうですが,この項目における 「ヨーロッパ型」 福祉も,佐和が 「第 3 の道」 とよんでいるものをさしています.

キーワード: セーフティーネット, セイフティ・ネット, 福祉政策, 格差社会

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