小林 多喜二 の 「蟹工船」 を 「愛蔵版 ザ・多喜二」 で読んだ. この小説の存在は中学生ころから知っていたが,読んだことはなかった. 最近この小説が非正規雇用者を中心としてよく読まれていて,非正規雇用問題と関連づけてさんざん議論されているが,論じられていない点も多々あるようにおもえる.
「愛蔵版 ザ・多喜二」 は 小林 多喜二 のすべての小説を 1 冊にまとめ,2625 円という破格の値段をつけている. どの版をもとにしたのかは書いてないが,著作権のきれた本をそのままコピーしたのだろう. ふるい,かすれた活字で印刷されているが,なれればそれほどよみにくくもない. プロレタリアート文学として平易な表現をつかったためだろう.
小林 多喜二 は蟹工船に関してかなり取材したうえでこの小説を書いたということだ. 蟹工船ではたらく労働者が死んでも死体が放置されたままだったというくらい非人間的なあつかいをうけていたこと,蟹工船じたいもぼろぼろで最悪の労働環境だったことはまちがいないのだろう. 現在の非正規労働者はここまでひどいあつかいはうけていないが,共通する点はあるのだろう.
正規労働者としてはたらいている私には経営的な思考がさきにたつ. 蟹工船を読んでも,労働者をこういう状態においておくことがほんとうに経営的に有利になるのだろうかという疑問がわいてくる. しかし,多喜二にはそういう視点はまったくない. しかし,はっきりいえることは,ぼろぼろの蟹工船をつかっているのは利益があがらないからである. 労働環境も改善すれば生産性はあがるだろうが,そうしないのはカネがないからだろう. これは,グローバリゼーションのなかで利益をあげにくくなっている,いまの経済構造と共通しているということである.
蟹工船の労働者たちはたちあがってストライキをおこすが失敗する. 公権力が自分たちをたすけてくれるものと信じていたのに裏切られて 9 人の同士がつかまる. この小説できちんとえがかれているのはここまでであり,最後に 「附記」 として 2 度めのストライキが成功したことなどが箇条書きで書かれている. これは小説としては異例な書きかただ. たぶん,多喜二はこの部分を通常の小説のスタイルでは書けなかったのだろう. つまり,失敗するストライキはなまなましくえがけるが,成功するストライキは夢であり,ドラマとしてはえがけなかったのではないだろうか?
現代の非正規雇用者が共感するのは,たぶん,たよれるものが自分たちしかない,自分たちがあきらめずに何度でも立ち上がることが必要だというところだろう. これは雇用者だけでなく,起業家にも,またもっとほかの目標をもったひとびとにも必要なことである. 多喜二が蟹工船の労働者の成功をえがけなかったように,現代の非正規雇用者も成功を保証されているわけではないが,みずから立ち上がることが唯一,成功につながっている道だろう.
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