山田耕筰 (Kósçak Yamada) が 20 代のときの作品をあつめた CD である Naxos の 8.555350J をきいた. 山田耕筰といえば唱歌ばかりが知られているが,彼がめざしたのはこの CD におさめられているようなクラシカルな曲の作曲家なのだろう. わかいときの作品だからやむをえないのだろうが,個性のある作品だとはいえない. 指揮者は湯浅卓雄だが,アルスター管弦楽団とニュージーランド交響楽団による演奏とのこと.
序曲 ニ長調 (1912) はロマン派より古典派的な作風. ベートーベンの序曲から影響をうけているとおもわれる. あまり魅力的にきこえない (のびのびしていない) のは,ニュージーランド交響楽団の演奏のせいか,録音のせいか,よくわからない. しかし,すくなくとももうすこし,うまくうたわせることができるのではないかとおもう.
交響曲 ヘ長調 「かちどきと平和」 (1912) も古典派からシューマンくらいまでの影響がつよいようにおもえるが,マーラーのボヘミアンな雰囲気を感じさせるところもある. しかし,シューマン的な音楽のはざまにワグナー的なひびきがきこえたりするところは,ちょっとおもしろい. とはいえ,過去の大作曲家の曲を下敷きにした習作という感じがつよい. 私が気づかなかった他の部分も,たぶん有名な曲を下敷きにしているのだろう.
交響詩 「暗い扉」 (1913) は全体としては重厚なひびきだが,はげしい部分もあり,リヒャルト・シュトラウスのいくつかの交響詩からの影響が感じられる.
交響詩 「曼陀羅の華」 (1913) は廉価版の LP でもきいた曲である. ひびきは後期ロマン派. シェーンペルクのグレの歌をおもいださせるような密なひびきである. グレの歌が完成したのは 1911 年だから,山田はこの曲をきいていたのかもしれない. この作品集のなかではもっとも作品,演奏ともに魅力的である.
追記:
CD 付属の解説書によると,「序曲 ニ長調」 が日本人初の管弦楽曲だという.
作曲当時は演奏されなかったらしく,ひびきがよくないのも演奏にもとづいて修正をくわえなかったためだろう.
内容に価値があるというよりは,歴史的な価値がある曲ということだ.
この CD が世界初録音ということである.
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