照明器具には 2 種類のモジュラリティがもとめられている. ひとつは電源規格の面でのモジュラリティ,もうひとつは電源コネクタに関するモジュラリティだ. もとめられているのは白熱灯でも蛍光灯でも LED でもおなじだが,とくに LED に関しては白熱灯とおおきな事情のちがいがある.
白熱灯 (と蛍光灯) に関しては,日本では交流 100 V がそのまま電球の規格になっている. フィラメントのふとさやながさを適切に設計することによって,容易に交流 100 V にあわせることができる (逆にいえば,容易にあわせられるように電灯線の電圧がきめられている). これによって,どんな白熱電球でも,何個でも,電灯線につなぐことができるというモジュラリティが確保されている.
蛍光灯に関しては 100 V では点灯時には不都合だが,安定器や点灯管をつかうことで 100 V での点灯を可能にしている. これによって,白熱灯と同様のモジュラリティが確保されている.
それでは LED はどうか? 1 個の LED にかかる電圧は 3 V くらいであり,電灯線よりはるかにひくい.しかも発光色によって電圧はことなり,かつバラつきがおおおきい.しかも,直流でなければならない. そのため,モジュラリティを確保するのはむずかしい. いまのところ電源規格として有力なのは交流 100 V,直流 5 V,直流 12 V の 3 つだとかんがえられるので,これらについて順に検討する. なお,モジュラリティを確保するためのべつの可能性としてこれら定電圧電源にもとづいた方法のかわりに定電流電源にもとづいた方法がかんがえられるが,それについては別項で考察する.
100 V 電源
いわゆる LED 電球は 100 V (または海外では 220 V や 120 V) で点灯するようになっている. 100 V を入力して 3 V 程度におとすため,LED 電球はスイッチング電源を内蔵している. LED 電球は通常,数個から数 10 個の LED を内蔵しているので,スイッチング電源のコストはそれにみあっているとかんがえられる. しかし,より少数の LED を点灯させる際には,いちいちスイッチング電源を内蔵して変換するのではコスト・パフォーマンスがわるい.
電源コネクタとしてはコンセントにさしこむプラグをつかうことができるが, 天井に関して日本では白熱灯の時代から引っ掛けシーリングとかローゼットとかのコネクタが標準品として使用されてきている. しかし,これらは日本独自のものであって,電源電圧がちかい米国においても使用されていない. 外国では直結電源が一般的なようだ. コンセントやプラグに関しても,アメリカでは日本のとおなじプラグをつかうことができるが,日本よりアースつきの 3P プラグがよりおおく使用されている. ヨーロッパ大陸およびイギリスにおいて使用されているプラグは,日本やアメリカのとちがうだけでなく,それぞれ形状がまったくことなっている.
100 V 電源によるモジュラーな照明の例はとくにあげる必要はないだろう. ひとつの照明器具がモジュラーに構成されている例はすくないとかんがえられるが,日本では 100 V 電源はいたるところからとれるようになっているから,いくらでも照明器具を追加したり削除したりすることができる. 天井照明に関しても,交換するのは容易だ.
5 V 電源 (USB 電源)
LED を 1 個から独立に点灯させるためには,バラつきがなければ 3 V の定電圧源で点灯させればよい. しかし,バラつきがあるため定電圧源なら約 4 V 以上でなければならず,降圧のために抵抗や定電流ダイオードをいれる必要がある. 4 V の電源は一般的でなく,一般につかわれているのは 5 V だ. USB の電源は 5 V であり,これはひろく使用されている. 5 V の電源を 3 V の LED を単独で点灯させるときは効率が 3/5 以下になってしまう.
このように効率においては問題があるし USB 電源は通常 1〜2 A (5〜10 W) しか電流をとれないという問題もある. しかし,電源規格として直流 5 V を選択すれば USB コネクタという世界標準になっている電源コネクタが使用できるので,器具のモジュラリティも確保できる. USB 電源を分配して使用するためには USB ハブを使用することができる. USB 2.0 規格のハブのなかには交流 100 V の電源タップよりむしろ安価なものもある (写真).
USB 電源は 100 V 電源ほどありふれたものではないので,100 V のときとはちがって. モジュラーな照明のためにはしくみを用意する必要があるとかんがえられる. そういう器具をつくる試行の例 (著者による) を写真であげておく. この器具には USB ハブがくみこまれていて,USB コネクタがついたライトをさしこむことができるようになっている. 現在はライトを 4 個までしかつけることができないが,もうすこしおおくのライトがさしこめるほうがよいだろう.
12 V 電源
効率をあげるため,通常 LED は何個か直列に接続して使用する. 3 個直列にすれば 9〜11 V になりバラつきが減少するので,自動車などで使用される 12 V の電源によって発光させることができる. (LED テープライトなどのなかには 24 V の電源を使用しているものもあるが,すくなくとも日本では 24 V はあまり一般的でないので,ここではとりあげない.) これによって効率はよくなるが LED を 1 個単位で点灯させることはできなくなり,3 個単位で点灯させることが必要になる. つまりモジュラリティは低下する. しかし,LED を照明用途で使用するとき 1 個だけで使用することはすくないので,3 個単位でもおおきな問題はないとかんがえられる. ここで問題になるのはむしろ 12 V 電源には照明のために適切な標準化されたコネクタがないことだ. 12 V 電源でよく使用されるのは自動車のシガーソケットだが,これはコネクタとしてはおおきすぎて不便だ (左下の写真). これよりましなのは電源アダプタなどで使用されている円筒形のもの (右下の写真) だが,これは 12 V 以外の電圧でもつかわれているしサイズのちがうものも使用されているので,あまり具合がよくない. しかし,いまのところ 12 V のコネクタとしてはこれが最善だとかんがえられる.
なお,12 V 電源によるモジュラーな器具は住宅などでは存在しないとかんがえられる. しかし,自動車においてはそれが一般的であるため,いろいろとくふうしているひとがいる. Web などでもそういう例がみられる. ただし,上記のように適当なコネクタがないため,たいていは直結配線を使用しているとかんがえられる.
電源規格の選択
上記のように,電源規格を選択すれば電源コネクタはだいたいきまるが,それではどの電源規格を選択すればよいだろうか? 小電流の用途において効率を犠牲にしてでもモジュラリティを重視するなら,現在は USB つまり 5 V が最善だとかんがえられる. よりあかるさがもとめられるときは 12 V がよいだろう. LED 電球のようにおおきな単位のモジュラリティでよいなら,100 V ということになるだろう. つまらない結論だが,LED に関してはいまのところ,こういうつかいわけが必要だとかんがえられる.
ここで提案したいことは,現在は 100 V がつかわれている場面でも 5 V や 12 V の電源を使用することで LED をよりよく使用することができるということだ. 第 1 に,USB ハブなどの USB 機器を使用すれば 5 V 電源の LED 照明をよりモジュラーにできる. 第 2 に,現在は自動車など一部の用途をのぞいてあまり使用されていない 12 V 電源をもっとひろく使用することによって,モジュラリティが確保され,バラエティが増加するということだ. LED 電球は LED の特性をよくいかしたものではなくて,白熱電球の代用品でしかない. それは,日本ではひろく普及している蛍光管をおきかえるものとしても不適切だ. LED 時代にはもっとちがうかたちの照明器具がつかわれてしかるべきだ.
LED 時代には都合がよくない交流 100 V での電源配線は将来,変更されるべきだとかんがえられる. しかし,当面はこうやって場所ごと目的ごとに最適な電源を選択して使用していくのがよいとかんがえられる.