私が研究してきた軸づけ検索や voiscape (仮想の “音の部屋” にもとづくコミュニケーション・メディア),あるいは CCM (化学的計算のモデル) というテーマは,ひとことでいえば,みとおしのよいコミュニケーションやみとおしのよい検索・計算をめざしてきたといえるとおもいます.
私が軸づけ検索においてもとめてきたのは 「みとおしのよい検索」 でした. 通常のキーワード検索によってえられる検索結果は 1 項目ごとにバラバラであるのに対して,軸づけ検索によってえられる検索結果は時間や地名のような 「軸」 にそって整列されているので,全体をざっとみて,みとおしをつけることができます.
また,voiscape においてもとめてきたのは 「みとおし (ききどおし?) のよいコミュニケーション」 でした. 電話や会議システムのような従来のコミュニケーション・メディアにおいては,それをつかっておこなわれる会話はみとおしのわるいものになってしまいます. 電話であれば基本的には 1 対 1 でつながるだけなので,第 3 者にとってはその会話はまったく認知できないか,または,会話しているふたりのうちのひとりに物理的にちかい場所にいればそのひとりの話がきこえるだけなので,いずれにしても,それがそのひとにとって関係のある会話であっても,みとおしのわるいものになってしまいます. また,会議システムも閉じた会話のためのメディアなので,立ち話やカクテルパーティのように第 3 者がはいりこめる余地はありません. 第 3 者にとっては,会話の内容はおろか,会話がおこなわれていることを知るのも困難です. こういうみとおしのわるさを (なくすとまではいえませんが) へらすため,voiscape においてはひとつの部屋のなかで複数の会話が同時進行できるしかけをつくっています.
また,軸づけ検索や voiscape におけるのとはかなり意味はちがいますが, CCM においては通常の論理にもとづく計算のみとおしのわるさを解決するために,エネルギーが最小化する方向に計算がすすむようなしかけをとりいれています (CCM では 「エネルギー」 ではなく 「秩序度」 ということばをつかっていました). 論理にもとづく計算ではちょっとしたバグのために計算がとんでもない方向にすすんでしまう (暴走する) ことが容易におこりますが,最小化のしかけをいれることによってこういう事態をふせぐ意図がありました. ただし,このような最小化のしくみをとりいれた計算モデルとしては,ニューラルネットや遺伝的アルゴリズムが有名であり,ほかにもおおくの計算モデルがあります.
CCM における 「みとおしのよい計算」 はべつとして,軸づけ検索や voiscape における 「みとおしのよさ」 はユーザからみえるものであり,デジタル・コンピュータをつかったコミュニケーションや計算が本質的にかかえている問題点を部分的ながらも解決しようとしています (この問題点は,いまはうまく説明できませんが,おそらく私が 「ライフワーク」 と呼んだ“デジタルとアナログの融合” や “記号と記号下のものの融合” と関係しているものとおもいます). Web や携帯電話やその他のデジタル・メディアからおこっている問題のおおくがここに起因していると私はかんがえています. したがって,それを解決することは現代社会がかかえる問題への解決策を模索することだとかんがえています.
こう書くといささかおおげさにひびくかもしれませんが,技術的な問題解決なしにデジタル・メディアがうみだす社会問題の解決はできないようにおもいます. つまり,現在の携帯電話は集中制御型のシステムなので,規制することによって問題がおこらないようにすることはできるかもしれませんし実際に日本政府による規制がはじまっていますが,インターネットのような分散制御型のシステムにおいてはうまく規制することができないとおもえます. みとおしのよさをのぞまないひとをこういうしかけのなかにとりこむのは困難ですが,それでも,みとおしをよくすることによって,ある程度は解決できるものとおもいます.