これまで,しばしば 「グローバル化」 がすすんでいることが指摘されてきた. いまでもそれは,すくなくとも部分的には進行しつつある. しかし,グローバル化の反対すなわちローカル化がおこっているようにみえる部分もある. こうした兆候をシリーズとしてとりあげてみたい.
しばしば,グローバル化とはアメリカ化を意味するといわれる. 強大な経済力,軍事力を背景として,アメリカは世界におおきな影響をおよぼしてきた. しかし,アメリカ化としてのグローバル化はアメリカが強大であるがゆえにおこっていたのであり,アメリカが没落すればグローバル化も終焉する.
エネルギー価格の高騰は物流コストを増大させる. そのため,物資が必要以上に遠距離をはこばれることは現在より減少するだろう. 従来は世界人口の 20% 未満の先進国のひとびとが開発途上国からどんどん物資を奪取してきたが,中国,インドをはじめとする人口大国が経済的にゆたかになり,消費をふやすことによって,物資は従来の先進国にはまわりにくくなる. それによって,物流が世界をかけめぐることによってささえられてきたグローバル化は終焉する. 物資の流通がおさえられることは,同時にそれに関する情報の流通をおさえることにもなる. 情報の流通コストは現在とくらべて大幅に増加することはないだろうが,必要がかぎられることによって,情報のグローバル化もおさえられることになる.
20 世紀においては世界的な規模での地域間格差すなわち南北問題が世界をとりまく大問題だった. しかし,いまやもっとローカルな地域間格差が問題にされるようになり,また日本や韓国などでは国内の所得格差が深刻な問題になっている. これはグローバルな問題だった格差の問題がよりローカルになった,つまり,ある意味で 「ローカル化」 がおこっていることを意味している.
エネルギー価格や,食糧および木材・鉄鉱石をはじめとする工業原料価格の高騰は,それらの供給源の分散につながる. 石油にかわるエネルギー源としての自然エネルギーやアルコール,オイルシェールなどの開発が加速され,木材の国内供給がうながされる.
中国の乳製品に混入されたメラミンがひきおこした問題が拡大している. この問題はサブプライム・ローンがひきおこした問題にくらべればちいさく,収束もはやいとかんがえられるが,その構造には共通点があるようにおもえる. すなわち,商品の流通がグローバル化したために,リスクが拡散されているということである.
グローバルに流通する商品の一部が汚染された材料をふくむことによって,その商品全体にリスクが拡大する事態がしばしばおこっている. そのひとつがサブプライム・ローン問題であり,べつのひとつがメラミン混入食品問題である (「メラミン混入食品問題とサブプライム・ローン危機との構造的な共通点」 参照). これらの問題はその構造に共通点があるので,ひとつの対策がひろくつかえる可能性がある.
グローバル化は世界のなかで一部の地域に富を集中させ格差を拡大するということがいわれる. しかし,これは一時的におこったことであり,長期的には富を拡散させ格差をちぢめる方向にうごいているようにみえる.
「グローバルな商品流通によるリスクを回避するには?」 という項目に書いたように,グローバルな商品流通は商品の 「汚染」 によるリスクを拡大させる. このリスクをおさえこむには,「汚染」 された商品の流通範囲を限定させる必要がある. そのためのひとつの方法は,その商品の対価を特定地域内でしか流通しない地域通貨のようなものにすることである. 地域通貨はグローバル化した 「マネー」 の否定につながり,反グローバル化につながるであろう.
緒言によれば本書は 「「グローバリゼーションの広がりとともに,ローカルなもの,自分らしさへの確固たる根拠を求める動きが強くなる」 という現象を,どのように理解すべきか,という関心の下に執筆されている」 という.
ギデンズの議論を軸として,さまざまな話題が関係づけられている. そのなかには民間企業による (民営化された) 軍事活動やセキュリティ・ソフト (ウィルス対策ソフト) の開発,「第 3 の道」 から 「新進歩主義」 への移行のなかでの 「民営化」 から 「公共化」 へのシフト,安全より安心をもとめる 「子供の安全」,福祉活動が私的な活動になって労働と余暇の境界が融解していること,フィンランド人が直面しているプロテスタント倫理にかわるべきハッカー倫理などなど,さまざまな問題がちりばめられている. それらは上記のテーマに関連づけられているが,その文脈からうきあがってみえる.
よみおわってのこるものは,これらのさまざまな問題のうずであって,なにも整理された感じがしない. しかし,これらのグローバリゼーションにかかわる問題のカタログとして,重宝するであろう.
評価: ★★★☆☆
フランス人の手によるグローバリゼーションの本ということだ. 日本で出版されたのが 2004 年ということで,あまり最近の本でないこともあるが,アメリカ人などの手による他の本とくらべると,グローバリゼーションへの理解が浅いようにおもえる. フランス人でも 18 歳 ~ 24 歳の半分以上がグローバリゼーションはチャンスだとかんがえているというような記述はちょっと興味をひかれるが,そうしたフランス人とグローバリゼーションとの関係をべつにすれば,それほど,めあたらしいことはない.
評価: ★★☆☆☆
著者は 2002 年以来,「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」,「人間が幸福になる経済とは何か」 そしてこの本という,一連のグローバリズム批判の本を書いている. これらはそのときどきのできごとをとりあげつつ,一貫してアメリカと IMF による 「グローバリズム」 のおしつけを批判している.
この本のなかでは,アルゼンチンが IMF の要求をはねのけて独自の経済再建を成功させた例がとりあげられている.それに対して IMF にしたがった国々は経済の低迷になやまされてきたという.
アメリカは浪費し赤字をたれながすことで世界経済の弱体化をふせぎ,「世界に奉仕」 してきた. しかし,アメリカはいつまでもそれをつづけられない (実際,サブプライム問題をきっかけにくずれた). 著者はそれにかわる体制を示唆している.
評価: ★★★☆☆
関連リンク: 世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す@ ,世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す@Amazon.co.jp.
グローバル化がすすむなかで,日本人も日本固有の不適切なやりかたをつづけることはできない. この本は世界のなかでよりよいやりかたをみつけて,それをとりいれることをすすめている. それを 「世界標準 (グローバル・スタンダード)」 と呼んでいて,実際,ひきあいにだされているのはアメリカやイギリスであることがおおい.
アメリカやイギリスに範をとるということは 「新自由主義」 をすすめるようにもうけとれるが,この本の論点はかららずしもそういうことではない. 「新自由主義」 がダメになったとしても,アメリカやイギリスからまなぶべきことはおおい. それを率直にうけとるべきだろう.
評価: ★★★☆☆
関連リンク: 世界標準で生きられますか@ (単行本), 世界標準で生きられますか@ (文庫), 世界標準で生きられますか@Amazon.co.jp (単行本), 世界標準で生きられますか@Amazon.co.jp (文庫).
新自由主義に席巻されたアメリカの経済学を信奉してきた著者が,そういう過去を自己批判する. 最近はつよく批判される小泉政権の政策については,郵政民営化で公共事業に自動的に資金がながれるしくみにくさびをうった点を評価しながらも,いなかの特定郵便局まで民営化して採算重視することへの疑問をのべている.
しかし,著者の議論はそれだけにとどまらない. 格差や貧困ををうみだし環境を破壊する近年のグローバル資本主義を批判するだけでなく,一神教であるキリスト教にささえられた米英の資本主義や土地の私有制などにもメスがいれられる. その一方でグローバル資本主義を拒否したブータンとキューバに羨望の目がむけられる. また,自然との共生を重視してきた日本人の思想をみなおし,「商人道」 から発した日本の商慣習を評価し,日本の自動車産業の成功の理由をそういうところにみている. また,日本 「再生」 のためにも,さまざまな提言をしている.
しかし,その一方で,批判した資本主義を 「歴史を逆行させることはおそらくできないだろう」 というように,かんたんにみとめてしまっている. 資本主義のルーツにまでさかのぼった議論をするのであれば,改良主義的な提言よりも,もっと根本的なみなおしの議論がほしかったようにおもう.
評価: ★★★☆☆
関連リンク: 資本主義はなぜ自壊したのか@ ,資本主義はなぜ自壊したのか@Amazon.co.jp.
マッキンゼーに就職しハーバード・ビジネススクールを経たのちさまさまな会社の経営にたずさわってきた著者の回顧録だ. 著者はおおくのひとにはできない経験をしているが,この本の内容はむしろ常識的といってもよいだろう. しかし,そのなかにさまざまな,ひかる部分がある. マッキンゼーへの就職をかんがえたときに,マッキンゼーのことを悪くいうひとは 「イメージ」 がベースだったのにくらべて,評価していたひとは具体的な事実がベースだったことに気づいたこと,日本以外のアジアとアメリカとのあいだの人の流れは日本にいるとあまり実感がわかないが,ボディーブローのように効いてきているという指摘など. さらっと書かれているが,よみとばしてしまうには惜しい.
評価: ★★★★☆
関連リンク: グローバル・マインド@ , グローバル・マインド@Amazon.co.jp.
TPP が日本の農業をダメにし,デフレをもたらして国民に深刻な影響をあたえると主張している. しかし,TPP をあたまごなしに否定しているわけではなくて,TPP は劇薬だともいっている. つまり,うまくつかえば成功する可能性もあることを示唆している. それでも否定しているのは,菅内閣をはじめ現在の政治状況では成功のみこみがないときめつけているからだ. その政治状況がくつがえらないかぎり,TPP をとろうと,すてようと,日本は壊れるのではないだろうか.
評価: ★★★★☆
関連リンク: TPP が日本を壊す@ , TPP が日本を壊す@Amazon.co.jp.
TPP 反対派がいろいろな本を書いているのに対して,賛成派が 書いた本はほとんどない. TPP に反対する理由は日本の農業に壊滅的な影響をあたえることなど,明確だ. それに対して,賛成する理由はあまり明確にのべられていないようにおもう. そういう状況のなかで,私も日本の TPP 参加には不利益のほうがおおきいのではないかと,おもわざるをえない. しかし,抽象的なレベルでは TPP には利点があるとおもう. それは,FTA にくらべて単純だということだ. FTA で複雑化した国際経済はどのようにうごくか,予測困難であり,したがって対処困難だ. それに対して TPP の単純さは予測と対処を可能にするといえるだろう.
日本経済をよくするにはまず経済をきちんと理解して経済・財政のウソを見抜くこと,そして経済だけでなく原子力などでも専門知識にもとづいた議論が必要だと主張している. 著者が憂いていることのひとつはリーダーシップの不足だが,専門家をあつめて明確な目標をあたえ,たばねていくのが政治的なリーダーシップということだろう.
著者は,まずデフレを克服することが重要だが,いまだにそれができないのはまちがった政策のためであること,増税はデフレをながびかせることを主張している. 小泉政権時代の政策のただしさを主張するためにもかなりのページをさいているが,これは著者のこれまでの本にも書いていることであり,ちょっと鼻につく.
評価: ★★★★☆
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野田首相が TPP 交渉に参加する方向で各国と交渉をはじめることをきめた. この決定を支持したい. しかし,いまおこなわれている TPP の議論は一面的であるようにおもえる. つまり,その議論においては実利ばかりが議論されているようにおもえる. 鳩山首相の時代には民主党は理念をだいじにする党だとおもっていたが,鳩山首相が失敗をかさねるなかで,理念はふきとんでしまったようだ. しかし,TPP をささえるのは 「あたらしい自由貿易のルール,つぎの時代の貿易のやりかたを確立する」 ということにある,つまり理念が重要なのではないだろうか?
日本人はこれまで,高い品質をえるためにコストをはらってきた. しかし,グローバル化がすすむなかで,国際水準にあわせるのか, それとも日本の水準を輸出するのかがとわれている. たぶん解はそれらの中間にあるのだろう.
日本の風土が日本人を世界のなかでも特異な思考や感情をもつようにさせていると著者はいう. 西洋や中国などで歴史上おこった大量殺戮が日本ではなかったこと,それに対して大規模な自然災害による死者がおおかったことなどをあげて,日本の特殊性をしめそうとしている. そして,外国人とちがって日本人が装置インフラを軽視し,合理的になれないといった弱点を説明している.
しかし,外国人とのちがいを章ごとにタイトルをつけてまとめようとしているようだが,各章の内容はタイトルとあまり合っていない. 雑然とならべているようにしかみえない. だから,この議論がまだ,だれでも理解できるように説得力を獲得しているとはいえない.
評価: ★★★☆☆
関連リンク: 日本人はなぜ@ , 日本人はなぜ@Amazon.co.jp.
TPP の議論の際などに常にいわれることは 「日本の国益」 である. それを議論するのはもちろんまちがっていないが,現代は,世界経済・政治などをかんがえるときに日本だけのことをかんがえても,もはやうまくいく時代ではない.
田村 耕太郎 の 「君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか !?」 という本への Amazon.co.jp の書評は,批判的なものが評価され,肯定的なものは評価されていない. もっとすなおに読めばよいのに,日本人とくにわかいひとたちの内向きつまり海外にでようとしない傾向を追認しようとしているのではないだろうか.
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