1981 年のことですが,私は修士論文のテーマとして 「プログラミング言語の言語学」 をえらびました. これはプログラミング言語を (自然言語の) 言語学の手法をつかって分析するこころみです. Web 上で英語でもすこしだけ内容を紹介していたため,最近この論文に興味をもち,学会のチュートリアルで紹介したいというひとがでてきました. そのために Web ページに英語の要約と目次ものせました. このブログでもこの論文について紹介したいとまえからおもっていましたが,これをきっかけにすこし書いてみようとおもいます.
この研究は修士論文を提出するほんの 3 カ月くらいまえからはじめた研究であり,人文科学的な内容であることからかんがえても工学系の修士論文としてかならずしも適切なものとはいえなかったとおもいます. しかし,当時,私としては真剣であり,就職したあとも研究を継続しようとこころみました. 現在でもそうですが,自然科学と人文・社会科学にまたがる学際的な研究には当時から非常に興味がありました. この論文じたいは日本語で,しかもまだワープロがほとんどつかえなかった時代のものなので手書きで書いてあるのですが,数年前にスキャナーで電子化して Web にのせました (じつは当時すでに日立に就職することが内定していたので,日立中研で開発していたワープロ・ソフトをつかわせてもらって入力することもかんがえたのですが,手書きにくらべてあまりにたいへんにみえたので断念しました). すでに書いたこの論文を紹介したいというひとのために,きょう,Web ページに英語の要約と目次ものせました.
論文の要旨にも書いてあるように,この研究をおもいついたのは,プログラミング言語がコンピュータをプログラムする言語というだけでなく,人間どうしのコミュニケーションにもつかわれる,つまりそれは人間が書くものであり,また保守などのために読むものだということからきていました. 人間どうしのコミュニケーションにつかわれるものなら,自然言語にちかい性質をおびるはずです. そこで,私はまず 20 世紀はじめの言語学者フェルディナンド・ソシュールが指摘した言語の特性が,仕様書上ではなくプログラムを支配している規則としてのプログラミング言語 (この意味でのプログラミング言語について,くわしくはこの修士論文を参照のこと) にもあるかどうかをしらべました. その結果,「記号の恣意性」,「2 重分節」 をはじめ,自然言語の特性とされている性質をプログラミング言語のなかにもみいだしました. たとえば,プログラミング言語につかわれている識別子が 2 重の構造をもっていることがわかりました. また,プログラミング言語にあるあいまい性についても研究しました.
これらの研究はほんの入口の部分であり,結局はつづけられずに挫折してしまったため,入口にはいっただけでおわってしまいました. 機会があればつづけたいというおもいはいまもありますし,他の研究者がそれをひきついでくれるものなら,そうしてもらいたいとおもいます. 日本語がよめない研究者にこの論文の全貌をつたえられないのが残念です.
関連ページ (2008-8-2 追記):