ひとは熟練すると複雑な仕事 (作業) をほとんど無意識にこなせるようになる [Eda 07]. こういう人間の能力すなわちスキルがさまざまな分野の専門家の仕事をささえているとかんがえられる. その一方でその仕事の前提 (北岡 [Kit 08] がいう 「リンチピン」) がくずれても,いままでどおりのやりかたで仕事をつづけようとする. 裁判もそういう複雑な仕事のひとつだといえるのではないだろうか.
スキルをもった裁判官にとっては比較的かんたんにこなせる仕事が,しろうとである裁判員にはこなせない. しかし,その一方で裁判員はそのスキルの前提にとらわれることがない. 社会や経済のしくみがおおきく変化しようとしている現代 (たとえばフロリダ [Flo 03]) においては,これまで不動とかんがえられてきた前提もくずれる可能性がある. それにいちはやく気づくのは裁判官ではなく裁判員だとかんがえられる. その意味でいま裁判員制度をとりいれるのはタイムリーだとかんがえられる (西野 [Nis 07] のような保守主義は不適切だとかんがえられる).
しかし,一方で裁判員のスキル不足をおぎなう必要があり,またバイアスがかかるのを阻止する必要がある. そのためには裁判にシステマティックな情報分析法・思考法をとりいれるのがよいとかんがえられる. 北岡 [Kit 08] はインテリジェンスすなわち政策決定につかわれる,表をつかった分析法をケーススタディとして刑事事件に適用しているが,ほかにもさまざまな分析法や思考法が提案されている (枝廣ら [Eda 07] もそのひとつである). こうした方法のなかから適切なものを選択して適用すれば,スキルをもっていなくても問題をあつかうことができ,しかもより客観的な方法で結論をみちびくことができるとかんがえられる.
裁判員制度を裁判官だけにまかせていたのでは限界がある. どういう方法がよいのか,問題分析法や解決法の専門家もふくめた検討をおこなうべきではないだろうか.
注: 写真は釧路の裁判所のページ (裁判員制度模擬裁判) から借用した検察官の冒頭陳述のシーンです. (2008-7-31 追記)
関連項目
- 裁判員制度を通じて裁判の精密化を実現せよ ! (2008-7-31 追記)
参考文献
- [Eda 07] 枝廣 淳子, 内藤 耕, 「入門! システム思考」, 講談社現代新書, 2007.
- [Flo 03] リチャード・フロリダ, (井口 典夫 訳), 「クリエイティブ資本論」, ダイヤモンド社, 2008 (原著 2003).
- [Kit 08] 北岡 元,「仕事に役立つインテリジェンス」, PHP 新書, 2008.
- [Nis 07] 西野 喜一, 「裁判員制度の正体」, 講談社現代新書, 2007.