櫻井よしこがすぐれたジャーナリストであるのはまちがいないだろう. しかし,この本では私怨に目をくもらされているとおもわざるをえない. 猪瀬直樹の強引さは猪瀬の著書を読んでもあきらかだし,櫻井に対して攻撃的だったこともたしかだろう. しかし,猪瀬が 「名誉欲」 で民営化委員をしていたというような記述には根拠がなく,生産的とはおもえない個人攻撃がくりかえされている. 猪瀬の個人攻撃をするのでなく,どのように民営化がだめにされていったのかを冷徹にとらえれば,もっと価値ある本になったのではないだろうか.
評価: ★☆☆☆☆
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道路公団やそのとりまきとの壮絶なたたかいが,なまなましくえがかれている. 道路公団にたちむかうにはどれだけの調査,官僚のウソを見抜くちから,説得力・交渉力,等々が必要だったか,それにもかかわらずかぎられた成果しかあげられなかったかがわかる. 猪瀬の強引なやりかたは他の民営化委員の反発をまねくこともしばしばだが,それは猪瀬にとってはぜひ必要なことだったということが,この本を読めばわかる. 他の委員だけだったら,もっと手前で挫折していただろう. 東京都の副知事になった猪瀬にふたたび期待したい.
評価: ★★★★☆
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道路公団に関しては,猪瀬 直樹 が 「日本国の研究」 でするどく追及し,猪瀬自身が民営化委員会のありさまを 「道路の権力」 と 「道路の決着」 に記録している. しかし,とくに後 2 者は当事者による記録である. この本の価値は中立的な立場で調査し,公団や民営化の問題点を追及したところにある. 猪瀬 直樹 の本や 田中 一昭 の 「偽りの民営化」 などとあわせて読むとこの問題をよく把握することができる.
評価: ★★★★☆
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著者は,ことなる立場にたちつつも真剣に道路公団の民営化にむきあってきた 7 人の民営化委員のうちのひとりだった. 民営化委員のひとりが作家の猪瀬直樹であり,この本のなかで,国交省や道路族と通じていたとしてするどく批判されている. 結局,著者は民営化委員としての立場や委員のあるべきすがたにこだわったのに対して,猪瀬は民営化委員としての立場をこえて (越権して),田中のことばによれば “フィクサー作家” としてぎりぎりまで自分や小泉首相のかんがえを民営化に反映させようとしたことが,両者をこれだけ対立させたのだとかんがえられる. 私には妥協をいとわず最後までたたかった猪瀬の本 「道路の決着」 のほうが迫力があるように感じられる.
評価: ★★★☆☆
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小泉首相が辞任してから,もう 1 年以上がたちました. いまさらという感じはありますが,私の小泉首相に関するかんがえを書いてみようとおもいます. ひとことでいえば,小泉元首相はカリスマをもっていたが,自分でその危険もよく知っていたということです.
最近,石油価格が急激に上昇しています. 投機によって需要以上に値上がりしたぶんはいずれさがるでしょうが,需要そのものが大幅にふえている以上,それほどさがることは期待できません. そういうなかで,これまでトラックにたよってきた国内の貨物輸送はコストが上昇しています. くるしんでいるトラック輸送業界にさらに追い打ちをかけることにはなりますが,これは石油の消費がすくなく CO2 排出もすくない鉄道輸送を復興させるチャンスなのではないでしょうか?
もう,ふるい話題になってしまいましたが,郵政民営化の意味について書いてみたいとおもいます. 郵政民営化の意味はいろいろありますが,特定郵便局についてみると,その局員とくに局長が郵便局のいきのこりをかけて必死にかんがえる環境をつくることが最大の意味だったとおもうのです.
緒言によれば本書は 「「グローバリゼーションの広がりとともに,ローカルなもの,自分らしさへの確固たる根拠を求める動きが強くなる」 という現象を,どのように理解すべきか,という関心の下に執筆されている」 という.
ギデンズの議論を軸として,さまざまな話題が関係づけられている. そのなかには民間企業による (民営化された) 軍事活動やセキュリティ・ソフト (ウィルス対策ソフト) の開発,「第 3 の道」 から 「新進歩主義」 への移行のなかでの 「民営化」 から 「公共化」 へのシフト,安全より安心をもとめる 「子供の安全」,福祉活動が私的な活動になって労働と余暇の境界が融解していること,フィンランド人が直面しているプロテスタント倫理にかわるべきハッカー倫理などなど,さまざまな問題がちりばめられている. それらは上記のテーマに関連づけられているが,その文脈からうきあがってみえる.
よみおわってのこるものは,これらのさまざまな問題のうずであって,なにも整理された感じがしない. しかし,これらのグローバリゼーションにかかわる問題のカタログとして,重宝するであろう.
評価: ★★★☆☆
ハイテク兵器の複雑さゆえに,それを使用する戦場に軍事請負企業 (PMC) の社員が常駐する必要がでてきているという [Mot 04]. このような事例は 「戦争の民営化」 の一側面としてとりあげられている.
戦争の民営化によって,軍が決定するべきことを権限をもたなず責任も負わない民間人がきめるようなばあいでがててくるという. 軍が責任をもって決定するべきことを,責任をもたない民間人がきめる,おそろしい結末をまねく可能性があるとかんがえられる.
このような危険をさけるには,ハイテク兵器の技術を透明にし,兵士が直観的にあつかうことができるようにすること,専門家なしでもあつかえるようにすることが必要である.
戦争ビジネスに関する本としては,戦争請負企業を中心としたものから個人の体験を書いたものまであるが,この本は両方をカバーしようとしている. 日本人がこの問題に興味をもつようになったきっかけはイラクで戦死した斉藤さんのニュースだったが,そこからはじめて,部隊の劣悪な環境,古代からはじまる歴史,アフリカやアジアの紛争地でのできごとなど,戦争ビジネスを概観するには適当な本だろう. 太平洋戦争やベトナム戦争に関しても,あまり知られていないエピソードがふくまれていて,興味ぶかい.
評価: ★★★☆☆
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11 の章からなる本だが,各章は独立の論文であり,タイトルの 「民営化される戦争」 に関する章はおおくはない. 議論はあまりていねいとはいえず,裏付けが書かれていない記述もおおい. MPRI という戦争請負企業に関しては,クロアチアでセルビア人を 10 万人も殺害してしまったという噂も書かれている. 「噂」 と書いてあるからよいようなものだが,論旨が噂に影響されるのはどうかとおもう.
評価: ★★☆☆☆
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医者や医療関係者に罵詈雑言をあびせたり特定の治療法を強迫したりする患者つまりモンスター・ペイシェントがこの本のタイトルになっている. しかし,この本がカバーしている範囲はそれにとどまらず,ちょっとしたミスで医者が逮捕されるようになってリスクのたかい検査や治療をさける傾向がでてきていること,医者が信じられずに病院を転々とする患者,医者の過酷な労働など,さまざまな問題がとりあげられている.
医療制度改革に関しては,新自由主義的な改革によってイギリスやアメリカの医療が悲惨な状態になっていること,日本でも小泉改革によって上記のような危機的な状況がもたらされたという. このまま 「小さな政府」 や民営化の政策がつづけられると事態はどんどん悪化していくと著者は主張している. 医療再生のための提案もしているが,十分な内容だとはおもえない.
解決への道はとおいようにおもえるが,意外なことに著者は 「光はうっすら見えています」 と書いている. まず,おおくのひとが実態を理解し,解決にむけた努力をかさねることが必要だろう.
評価: ★★★☆☆
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「構造改革」 について論じるとき,戦後日本の経済成長とその鈍化や現在の人口減少などの社会変化について考察することは必須だろう. ところが,この本では小泉改革やその反転に関する政府機関のうごきなど,表層的なところしかみていない. 非正規雇用者や貧困の問題がいくら深刻だからといって,表面にあらわれたことだけをみて政策をみれば,判断をあやまるだろう.
評価: ★☆☆☆☆
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第 1 章では,現在の経済状況は主流の経済学では想定していなかったこと,バブルの際には通常の市場のメカニズムがはたらかないが,これまでそれを経済学があつかってこなかったことを指摘している. そして,「バブルの経済学」 を構想している. また第 2 章では,竹中平蔵らによる構造改革をことばをきわめて批判し,そうではなく教育投資や環境エネルギー革命などによって成長をめざすべきだと主張している. 第 3 章では格差とインセンティブの問題をあつかっている.
著者は主流の経済学を批判し,それにもとづく政策を批判している. 著者自身,「異端」 であることを認識している. 批判するのはけっこうだが,主流に対抗できるだけのものがあるのだろうか. この本では格差や医療や諮問機関など,現在の政治経済の問題点をつぎつぎにあげて批判しているが,それらがみな経済学者のせいだというのだろうか? 竹中のように政策をになえないもののひがみにしか,きこえない.
評価: ★★☆☆☆
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新自由主義に席巻されたアメリカの経済学を信奉してきた著者が,そういう過去を自己批判する. 最近はつよく批判される小泉政権の政策については,郵政民営化で公共事業に自動的に資金がながれるしくみにくさびをうった点を評価しながらも,いなかの特定郵便局まで民営化して採算重視することへの疑問をのべている.
しかし,著者の議論はそれだけにとどまらない. 格差や貧困ををうみだし環境を破壊する近年のグローバル資本主義を批判するだけでなく,一神教であるキリスト教にささえられた米英の資本主義や土地の私有制などにもメスがいれられる. その一方でグローバル資本主義を拒否したブータンとキューバに羨望の目がむけられる. また,自然との共生を重視してきた日本人の思想をみなおし,「商人道」 から発した日本の商慣習を評価し,日本の自動車産業の成功の理由をそういうところにみている. また,日本 「再生」 のためにも,さまざまな提言をしている.
しかし,その一方で,批判した資本主義を 「歴史を逆行させることはおそらくできないだろう」 というように,かんたんにみとめてしまっている. 資本主義のルーツにまでさかのぼった議論をするのであれば,改良主義的な提言よりも,もっと根本的なみなおしの議論がほしかったようにおもう.
評価: ★★★☆☆
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小泉政権下でずっと重要な位置をしめていた竹中平蔵が金融担当大臣だった時代をふりかえっている. 郵政民営化や道路財源に関する 「戦争」 に関してはおおくの文章があり,1 冊ならず読んでいたが,りそな,UFJ,ダイエーなどに関するいきさつは,よく知らなかった. 本書はそこで水面下でおこなわれていた熾烈なたたかいをあきらかにしてくれる.
評価: ★★★☆☆
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小泉政権下での竹中大臣のさまざまな挑戦を挑戦者自身がえがいている. 個々の問題をもっとくわしくあつかった本はほかにあるが,金融改革,郵政民営化,政策プロセスの改革など,全部をとおしてみるにはこの本を読むのがよいだろう. 竹中大臣がただしかったかどかはより客観的にみる必要があるだろうが,彼自身がなにをかんがえ,なにをやってきたかを知ることができる.
(実名はあまり書いてないが) 批判されているひとがおおいなかで,北朝鮮訪問もふくめて,小泉首相には最大限の賛辞が書かれている. また,自民党税調のドンといわれた」山中貞則に対して 「政界のドンと言われる人の志の大きさと人間の奥深さを,様々な形で学ばせてもらった」 というのも興味ぶかい.
評価: ★★★☆☆
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最近,鳩山総務大臣はことあるごとに日本郵政バッシングに走っている. まずオリックスへの 「かんぽの宿」 の一括売却をやめさせた. そして今度は東京中央郵便局のたてかえにイチャモンをつけている. つぎつぎに日本郵政に難題をつきつけて,西山社長を追いつめ,小泉改革をダメにしようという魂胆だ. たてかえ問題では世論にきいてみたいなどといっているが,だまされてはいけない.
「パトスの首相」,「強い首相」 という観点から小泉元首相の政治手法を分析し,内政,外交をそれぞれ分析している. そのうえで日本の政治のながれを 「利益の政治」 と 「アイディアの政治」 の対立という視座からとらえて,小泉が 「アイディアの政治」 を復活させ,日本の政治をおおきくかえたとしている. しかし,「アイディアの政治」 の意味が十分説明されていないので中途半端になっている.
「あとがき」 で著者は過小評価していた小泉首相を 2005 年の総選挙以降,注目するようになったということを書いている. この選挙の結果として郵政民営化が実現したのは事実だが,それ以外ではむしろ徐々にちからをぬいていっていたように私は感じていたので,違和感があった.
評価: ★★★☆☆
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「小泉改革の時計を逆まわししようと陰謀をめぐら」 して日本郵政をさまざまな方法でタタき,最後には首相が反対しても西川社長をやめさせるといってきた鳩山総務大臣がついに,更迭にちかいかたちで辞任することになった. 鳩山大臣を任命した張本人ではあるが,辞任させた麻生首相を支持したい.
総選挙で民主党が大勝するのはもはや確実だ. その民主党は国民新党とともに郵政民営化をみなおすといっている. しかし,すくなくとも国民新党がめざしているように,また,鳩山前総務相がめざしていたように,郵政民営化をダメにはしないでもらいたいものだ.
小泉郵政改革に反対する立場の議論である. 郵政や道路公団の民営化だけでなく,国鉄,電電公社,専売公社の民営化も批判的に再検討している. これら三公社の民営化に関しては累積赤字のツケを国民にまわしたことを批判している. しかし,そうしないで公社のままだったら,さらに累積赤字がつみかさなって,もっとひどいことになっていたのではないだろうか? これらの民営化に関する論点を提供している点では価値があるが,読者もこの本を批判的によむべきだろう.
評価: ★★★☆☆
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郵政民営化がはじまってまもない頃に書かれた本である.そのため,2/3 くらいは郵政公社と民営化による労働問題の告発などにあてられているが,大半は民営化以前の話題だ.その意味ではタイトルからはずれている.のこりの 1/3 は宅配便や公的機関による派遣業者への委託がひきおこしている労働問題などをあつかっている.つまりこの本は民営化をあつかっているのではなくてワーキングプア問題をあつかっていることになる.深刻な問題であることはまちがいないが,焦点がぼけてしまっているのが惜しい.
評価: ★★★☆☆
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民主党中心の鳩山内閣が成立した. 亀井静香国民新党代表は郵政・金融担当ということだ. 亀井氏本人は総務大臣をのぞんだということだが,さすがにこんな小党に総務大臣という重要ポストをわたすわけにはいかない. 郵政担当大臣というのは巧妙な案といえるだろう.
大阪市は市内の地域 (区) のきめこまかい行政のためにはおおきすぎる一方で,広域行政においては大阪府と 2 重になっている. 大阪府知事を経験するなかで著者はそれを痛感し,大阪都構想つまり大阪市の地域行政に関する権限を区にゆずり,広域行政は大阪都にまとめることを推進している.
著者の主張には説得力があるが,定量的なデータはわずかだ. 大阪の市民や府民に重要なのは現状をかえるべきだというかんがえを支持してほしいということであり,そのためには定性的な主張で十分だということかもしれない. しかし,やはりその主張をうらづけるデータがあればもっとよかったとおもう.
評価: ★★★★☆
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現在の日本の健康保険では,健康なひとも病気にかかっているひとも,おなじ保険料をはらうようになっている. 民間の保険ではかんがえられない制度だ. 保険料には差をつけるべきだろう. また,健康を維持・増進しようとしているひとも,健康を害する行為をしているひとも,おなじ保険料をはらうのは不適切ではないだろうか. 健康保険を破綻させないためには,これも改善が必要だろう.
小泉純一郎は時節をかなりストレートに主張したが,劇場化することによって国民をのせた. 野田首相は正面突破をはかっているが,支持率は低下している. 小沢一郎はなにをかんがえているのかわからない. 橋下大阪市長もストレートにはすすめなくなっているようにみえる.
序章は 3.11 のことを書いているが,それについて書いている量は想像していたよりすくない. この本のおもな内容は近代化や成長がおわった日本をどう方向転換するかということだ. キーワードは 「負の再分配」 であり,菅直人がかかげていた 「最小不幸社会」 と同様にネガティブなイメージがこの本全体をおおっているように感じられる.
もはやおおきな成長はのぞめないというのはそのとおりだろうが,政治家が (ウソをつくという意味ではなく) もっとあかるい未来のイメージをしめしてくれないことには, 日本はよい方向にむかうことができないのではないだろうか?
評価: ★★★☆☆
加計学園問題などで安倍内閣の支持率が急落する事態になっている. この問題はは基本的には,岩盤規制をこわすために内閣府が文科省から主導権をうばおうとしたことに対して,文科省が反撃することによっておこっているのだとかんがえられる. 内閣府の関係者が加計学園にふかくかかわってしまったために疑惑を否定することができなくなってしまっているが,国会などでいくら答弁しても,不在の証明つまり加計学園の優遇がなかったことを証明することはできない. NHK は冷静に報道しているが,おおくのマスコミは疑惑を強調するような報道をしていて,国民がそれにのせられているようにみえる. しかし,官僚にのせられてしまっていては岩盤規制改革・構造改革なんて 100 年たってもできない.
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